脳卒中の88歳男性は自力で歩けるまで身体機能が改善

そして結果はといえば、実験開始からたった5日間で、参加した高齢者たちの視力、聴力、体力、手先の器用さ、見た目、総合的な認知能力などに、明らかな若返りが見られたのです。

しかも被験者の中には、1年半前に脳卒中を起こして歩けなくなっていた88歳の男性もいましたが、彼は、なんと自力で歩けるまでに身体機能が改善していたのです。

この実験は明らかに、「人間は『自分は若い』と思い込むことで、実際に心身が若くなる」ことを証明しました。

信じられませんか? では、ちょっとあなた自身で試してみましょう。

自分は今、17歳か18歳だと、強く強く思ってみてください。

さあ、思い出してきましたか? あの若かりしころの気持ちや感覚を。

すると今、なぜか背筋がスッと伸びて姿勢がよくなりませんでしたか? ほんの一瞬でも、心や体に力がみなぎるのを感じませんでしたか?

この行為を一瞬だけではなく、24時間ずっと、自分は若いと思い続けたらどうなるでしょうか? 毎日そう思い続けたら?

明らかに、心身は若くよみがえるはずです。

楽器の演奏なら「昔の自分」より上達することも

人は「実際の肉体の老いを感じて」というより、むしろ「年齢を自覚するせいで」老いてしまっているところがあります。

たとえば、学生時代にピアノやギターを弾いていたけれど、「社会人になってから、忙しくてやめてしまった」という人は多いでしょう。

そういう人は、今はもう昔のように上手には弾けないかもしれませんが、それでも再び練習を始めれば、案外と早い段階で以前のレベルに戻ります。

体はかつての感覚を覚えており、ハードな運動とは違って楽器の演奏などは、スキルも復活していくものだからです。その後も練習を続ければ、だんだんと「昔の自分」よりも上達していくかもしれません。

自宅でギターを弾くシニア女性
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

ただ、当時のようにメキメキ上達したり、すぐに楽譜を覚えて弾きこなしたりすることが少々難しくなったことを実感した場合、つい、こんなふうに思ってしまいます。

「若いころは、もっとスラスラと演奏できたのに、私ももう年だな……」

「自分も70歳か。いつのまにか、ギターまで弾けない年齢になったんだな……」

そうやって「老い」を嘆けば、たちまちモチベーションは下がり、練習することさえ嫌になってしまいます。すると上達はさらに遅くなり、あげくの果てには、楽器未経験にもかかわらず地道に練習を続けた同年代の人に追い越されてしまう。それでさらに老いを痛感して、老け込む――という悪循環にはまっていきます。

要するに、ハーバードの反時計まわりの実験から導かれた「若さを持続するために大切なこと」とは、これです。

「年をとったから、もう若いころのようにうまくできない」などと、年齢をまざまざと痛感させられるような機会は極力減らして、「今も、若いころのようにできる! 若いころと変わらない」という「思い込み」を維持すること――。

そして、そのためには、年をとったことを感じさせるような事象は、周りから排除したほうがいいのです。