日本初となる子供のためのホスピスを!
子供の人権を大切にする欧米では、子供の緩和ケアも広がっていたが、日本では当時、大人の緩和ケアがやっと始まったばかり。原さんは「子供の緩和ケア」の必要性を訴えるさまざまな普及活動に、仲間と共に取り組むようになった。
2009年には子供の緩和ケアの先進国・英国の子供ホスピス「ヘレンハウス」の創始者シスター・フランシスを招いて大阪で講演会を開催。これを機に、翌年「こどものホスピスプロジェクト」を発起。
13年にはユニクロと日本財団から資金提供を受けることが決定し、ホスピス実現に向けての動きが加速。そして、16年、日本初の子供のためのトータルケアセンター「TSURUMIこどもホスピス」がオープンしたのだ。
代表理事には、IT企業の経営者でスタートアップや組織運営のノウハウをもち、自身も難病の子を抱える高場秀樹さんが就任し、原さんは副理事長に就いた。
運営の費用は企業や個人からの寄付で賄われている。予算は決して潤沢ではないが、利用者の費用負担はゼロ。難病の子供を抱えた家庭では、医療費の負担が大きく経済的に厳しい状況に陥っているケースもある。
「チマチマと利用料をとったところで、いくらにもならん。そんなことより、どんどん利用してもらうことが大切や」と原さんは笑う。
「こどもホスピス」のテーマは「生命を脅かす病気の子供とその家族の『やりたい』を『できた』に変える」こと。原さんは、「ここは第二のおうち」だともいう。病にかかっていても、子供は成長する。言葉を覚え、体も少しずつ大きくなる。そんな子供たちを、保育士や教師、看護師や理学療法士たちが温かく見守る。原さんは、「僕は医師ですが、ここでは子供たちの友達として寄り添っています」という。
ゲーミングルームのほか、おもちゃの部屋や絵本の部屋、カフェ風の部屋にちょっとしたキッチンのある部屋など、子供なら誰もが一度は「こんなところで遊んだり、友達とおしゃべりしたりしたいな」と思い描くような、さまざまな部屋がある。宿泊室はどんな高級ホテルも顔負けするようなおしゃれさ。高場さんの「人生の短い子供にこそ本物を」という理念が生きている。
中庭の芝生でピクニックをすることもできる。生まれて初めての水遊びをここでした、という子も。取材した日は、魚をさばいて握りずしを作っていた。感染症の予防のため、普段は自分のきょうだいや友達と遊べない子も、ここでは「普通の子」として笑っている。利用している子供たちの笑顔を見ていると、この子たちが手ごわい病と闘っている真っ最中だとはとても思えない。子供時代にしか得られない楽しみを満喫している喜びがあふれ出ている。
原さんは語る。
「医師は病気を『治す』ことが仕事。それは確かにそうやけど、『治す』ことを追求するあまり、患者さんを見失っていることもあるんやないかな。医師の仕事の目的は、患者さんがよりよい人生を送るための手伝いをすることなんやということを、忘れてはいけないと思います」
1973年 大阪府立大手前高等学校卒業
1980年 大阪大学医学部卒業。トロント小児病院、大阪大学医学部附属病院小児科などに勤務
2008年 大阪市立総合医療センター副院長、小児医療センター長、小児血液腫瘍科部長
2010年 こどものホスピスプロジェクト発起
2016年 TSURUMIこどもホスピス副理事長に就任
2020年 大阪市立総合医療センターがん医療支援センター長を務める
2022年 大阪市立総合医療センター顧問 日本小児科学会専門医、日本小児血液・がん学会暫定指導医、NPO法人シャイン・オン!キッズ副理事長などを兼務し、重い病気を抱える子供とその家族を支援している