※本稿は、『医学部進学大百科2024完全保存版』(プレジデントムック)の一部を再編集したものです。
小児科医としての疑問、そして迷いが晴れた日
「すごいでしょ。この子たち、ゲームに夢中です。余命いくばくもない子がここでは徹夜でゲームをしているんです。家では許されないけれど、ここでは大目に見てくれる。付き合っている親御さんや我々スタッフのほうが先に参ってしまいそうや」
困ったような、呆れたような顔でそう言ってから原純一さんは、「でも、そういうことなんですよ。そういう体験をさせてあげたいんです」。そうつぶやいた。
「TSURUMIこどもホスピス(以下こどもホスピス)」。大阪市の東部・鶴見区の「花博記念公園鶴見緑地」の一角にある、一見、ウッディなペンションかと思えてしまう建物だ。
「ホスピス」というと命を看取るまでの緩和ケアを行う施設を連想するが、「こどもホスピス」に“入院している子供”はいない。難病と闘う子供たちが家族とやってきて「子供なら当たり前の体験」をするための施設だ。原さんはここの創設メンバーの一人で、副理事長を務めている。
「こどもホスピス」がどんなところなのか、詳しくは後述するとして、まずは原さんのこれまでの歩みをたどってみよう。
原さんは大阪大学医学部を卒業後、研修医を経て、小児科の医師として同大医学部附属病院に勤務した。
「小児科を選んだのは、『大人の病気と違って、子供だったらめったに死ぬこともないやろうから気が楽やろうな』という軽い気持ちでした」(原さん、以下同)
ところが現実は違った。特に、大学病院にやってくる患者には、白血病などの小児がんをはじめ、命に関わる病気と闘っている子供が多い。「気が楽」どころの話ではない。
「何とかして助けてほしい」「わずかでも可能性があるのなら、できることは何でもしてください」と懇願する親に向き合うことになったのだ。
それは当然のことだ。原さんもそう思う一方で、疑問も感じていた。抗がん剤治療は、大人でも音を上げるほど、体に大きな負担がかかる。副作用も多い。
当時は大人も含めて本人にがん告知を行うのはタブーとされていた時代。子供に対してはなおのことだ。きちんとした理由を知らされないままつらい治療を受けさせられ、医師や親に対してさえ不信感を募らせる子供もいた。本当にこれでよいのだろうかという迷いを、原さんは拭うことができなかった。
そんなとき原さんは、ある親子に出会った。
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