完全なる絶好機など永遠に訪れない

外尾氏は、長らくサグラダ・ファミリアの職員ではなく、1回1回、契約で仕事をする請け負いの彫刻家だった。

教会を納得させる作品ができなければ契約を切られる可能性がある。だからこそ、いつも「これが最後だ」「これが最後だ」と思いながら、仕事に取り組んできたのだという。

外尾氏の話を伺った当時、私は、自分自身によく言い訳をしていた。いまはまだ自分には早すぎる、いまはまだ機が熟していない……。そんな思いがすぐ胸中に湧いてきて、結局何一つ踏み出せないままでいることが多かった。

だがよく考えてみると、“完全に機が熟した”と言い切れる絶好機などというものは、それまで一度もなかったように思う。

「その時」と「いま」とは決して分離したものでない。いまこそがその時で、その時こそがいまなのだ。「その時」でないいまなどは、一つとして存在しないことに思い至った。

安藤忠雄「ノロノロ運転のリーダーなどいらない」

最後は、建築家・安藤忠雄氏によるリーダー論だ。企業経営者との対談で発せられたある言葉が忘れられない。

車の運転でもそうですが、ノロノロ運転していたら眠くなってぶつかりますけど、時速150キロで走っていれば居眠り運転なんかしないでしょう。

これは大企業でも、25人ほどの私の事務所でも同じで、リーダーは目標を明確にして、それに向けて可能な限り全力疾走していれば、緊張感があるからそんなに失敗しないと思うんです。やっぱり居眠りができるような中途半端な走り方では駄目です。

時速60キロ程度では油断が生まれます。120キロとか150キロとかの、どう見てもスピードオーバーであるという速度で走るべきです。ぶつかったら終わる、と周りは忠告するかもしれませんが、突出するから必死な姿が見えます。

よい仕事をするぞ、責任ある仕事をするぞ、と決心して本気で前を行くリーダーにこそ人はついていくものです。特に若い人には、本気で仕事をするとはどういうことかを体感するためにも、全力疾走するリーダーになれと僕は言いたいですね。