結婚するメリットとデメリット

実家を出てから約4年。27歳になった奈良さんは、社会人サークルで知り合った男性と交際に発展。その2年後、結婚することになった。

「親と絶縁したことを話すと、多くの人は『親と喧嘩してるの? 大人になりなよ〜』と理解されないか、『えっ! 可哀そうに。気付いてあげられなくてごめん……』と大げさに哀れまれるかのどちらかでしたが、夫は事実をフラットに聞いてくれて、『この人はなんか違うな』と思いました」

しかし、結婚までの道のりは決して平坦ではなかった。

奈良さんは何よりも、夫の両親に「親と仲が悪いなんて問題のある娘さんなのでは?」と思われることが怖かった。だが隠し通すことはできない。そこで正直に、「親と仲が悪く、しばらく連絡を取っていない」とだけ伝えたところ、それ以上聞かれることはなかった。

ところが無事に籍を入れ、ほっとしたのも束の間。夫の両親が、「せめて一回は会っておきたい」と言うため、奈良さんは、6年ぶりに両親と会わなければならなくなってしまう。

「ものすごく嫌でしたが、覚悟を決めて電話をしました。母が出たので、『結婚したので相手のご両親と顔合わせをしてほしい』と切り出すと、『わかった』と言い、日取りを決めました」

顔合わせ当日。奈良さんは震えや吐き気が止まらず、内心パニック状態だったが、夫の両親の手前、平静を装い通した。

「私は真顔以外の顔を作ることができず、態度も最悪で、とてもぎこちない時間が流れました。母は終始こわばった表情で、お祝いの言葉は一言もなし。一度だけ父が何かの話の流れで、『俺は定年前、次長だったんだぞ。お前は興味なかったから知らないだろ?』と私に話をふってきたのですが、『子どもに興味がなかったお前が言うのか?』と呆れました」

時間が過ぎ、「やっと苦行が終わった」と奈良さんが思ったその瞬間、突然母親が夫に話しかけた。新居の住所と夫の連絡先を聞き出したのだ。

事情を知っていた夫もさすがに断ることはできず、奈良さんが必死で守ってきた砦はあっさりと破られてしまう。以降、母親はときどき奈良さんの夫に連絡をして来たが、夫はブロック。新居宛に荷物が送られてきたこともあったが、すべて受け取り拒否。幸い両親が新居に突撃して来ることはなく、奈良さん夫婦はその3年後に引っ越した。

玄関の前に積み置かれた宅配便
写真=iStock.com/Daria Nipot
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それでも奈良さんにとって結婚は、悪いことばかりではなかった。

「毒親育ちが結婚する最大のメリットは、何かあったときの緊急連絡先が配偶者になるという点だと思います。自分に何かあっても親に連絡が行かない。緊急連絡先に親の名前を書かなくていい。私には親以外に緊急連絡先欄に書けるような親戚がいなかったので、とても重要なことでした」

名字を変更できるというのも大きなポイントだった。奈良さんは両親と同じ名字を捨てられて感無量だった。