奈良家のタブー

筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。

「短絡的思考」は、焦って結婚したという母親と、愛がない結婚を受け入れた父親両者に見られる。

現在30代の奈良さんの親世代やそれ以前の世代の人たちは、結婚適齢期や世間体を気にするあまり、慌ててお見合いをしたり友人知人に紹介をしてもらうなどし、出会って数カ月で結婚するカップルが少なくなかった。

車のドアを開けようとしている男性の手元
写真=iStock.com/LanaStock
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『29歳のクリスマス』というドラマや「売れ残り」などという言葉が流行ったのは、筆者がまだ10代の頃だったが、私たちの世代が20代半ばを過ぎる頃には、結婚適齢期や世間体を気にする風潮がおさまっていたのは幸いだった。

私たち世代からすれば、ろくに相手を知らないまま結婚できてしまう上の世代の短絡的さに驚愕する。20代で慌てて結婚し、平均寿命である80代後半まで生きるとしたら、結婚後の人生のほうがはるかに長い。そんな長い時間をともに生きる生涯の伴侶を、たった数カ月で決めてしまっていいのだろうか。

案の定、奈良さんの両親の仲は良いとは言えず、見栄のために散財し、子どもを虐待する母親と、家族に無関心な父親が出来上がる。奈良さんの知る限り両親に親しい友だちはいない。パートをして暮らしているのに、外車を2台も持つほどの見栄っ張りということは、近所や親戚に対する競争心も強かったに違いない。まともな人なら、愚痴や悪口ばかりで、誰彼構わず競争心むき出しの人とわざわざ親しくなろうとは思わない。

連日奈良さんと母親が口論する声や物が壊れる大きな音が近所にも響いていたはずだが、誰も助けに来ず、警察を呼ばれることもなかったのは、それだけ奈良さんの両親が近所で“浮いた存在”だったということが想像できる。親戚さえ疎遠だった様子からして、奈良さん一家は社会から断絶・孤立していた。

そして“最悪の日”に、奈良さんは両親を見限った。

「両親に対して、恥ずかしいという感情は持ったことはないと思います。外面は良かったですし。どちらかと言えば、『ここまで話が通じないのは頭がおかしいんだろうな』とか、『私には真っ当に愛してくれるまともな両親はいないんだな』と思っていました」