「おいしさ」にこだわり新商品を開発

――「BEYOND TOFU」シリーズなど、独特の尖った新商品も成長に寄与したのでは?

【鳥越】もちろん、相模屋の商品に注目して頂く効果は大きいです。「BEYOND TOFU」シリーズは、シュレッドタイプ、バータイプ、マスカルポーネのようなナチュラルとうふ、など、「おとうふの世界はもっと可能性がある」ことを知らしめようと、約10年前からやってきました。

ですが、こうした新商品にしても、結局はおいしくなければ一過性で終わってしまいますよね。どんな商品も「おいしいおとうふ」をつくる基本から外れないことで、成長できたと思います。

――ここ数年、他のメーカーからもいろいろな豆腐の新商品が出始めたようです。

【鳥越】はい、素晴らしいことだと思います。従来の豆腐メーカーの「新商品」といえば「2個パックが3個パックになりました」というようなものしかなかったので、ようやく業界が活気づいてきたのかもしれません。長期低落傾向が続いていたんですが、最新の業界分析によると、わずかにですが上昇に転じてきたそうです。(豆腐の市場規模は2021年は販売額で前年比96.6%だったが、22年は100.2%、23年は104.0% 出所:富士経済『2024年食品マーケティング便覧No.2』)

経営難の根本原因は「価格競争」

――『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』でも最初に触れられていますが、2012年から積極的に同業の救済M&Aに取り組まれています。豆腐メーカーが経営難に陥る要因にはどのようなものがあるのでしょうか? 共通点があれば教えてください。

【鳥越】商品では差別化できない、という思い込みが強固なために「豆腐というのは、とにかく安くして数で稼ぐ。それ以外に打ち手はないんだ」と、誰もが信じている。これが経営難の原因です。みんな量産と価格競争に走り、ついていけなくなったところから破綻していくわけです。破綻したメーカーに行くと、まず確実に安売りできるはずのない商品を、無理に安売りしています。

これは、いわゆる高度成長期の成功体験が残ってしまったのかなと思っています。需要が伸びる一方だったので、数を出せれば成長できた。そのために単価を下げても数の伸びがカバーした。人口が減少に転じても、「安さ=正義」だった時代からの転換ができなかった業界だったのですね。

ただ、こんなことが分からない経営者はいません。「安売りをしていたらそのうちダメになる」という認識は、どのメーカーさんにもあるんですよ。ダメだと分かっているんだけれど、そこから抜けられない、抜ける手段が思いつかない。そして限界を迎えて経営難に陥る。そんな流れではないでしょうか。