「黄金時代を取り戻せ!」

――2012年から23年までに、11社の再建に乗り出してきました。救済にあたる際、どのようなことから着手するのでしょうか。鳥越社長が大切にしていることを教えてください。

【鳥越】私どもが(再建を)やるときには、「価格競争に入る前にやっていたこと」を思い出してもらうことから始めます。本でも触れましたけれど「黄金時代を取り戻せ!」です。

どうして黄金時代が去ってしまうか。うまくいっていたメーカーさんでも、何らかのきっかけで業績が落ち込むと「売り上げを伸ばせ」と安売りに走って、その会社が大事にしていた数字に表れない部分の工程や品質へのこだわりを、「もっと効率を上げろ」と、潰してしまうんです。

おとうふは水と大豆でつくるシンプルな食べ物ですが、その分、アナログな感性や手順が味に大きく効いてくる、と、私は思っていまして。簡単に言えば、現場の従業員のやる気やこだわり、プライドが、味にちゃんと出てくる。

そんなおとうふづくりの現場を、経営指標を改善するために、利益率、歩留まり、生産効率といった数字で管理しようとすると、何が起こるでしょうか。現場が、「おいしいおとうふ」をつくるのをやめて、「原価率これこれ、ロス率これこれ」の「白い塊」を作り始めるんです。数値目標の達成が最優先になり、食べたお客様がどう感じるか、おいしいと思ってもらえるか、が二の次になる。それはすぐに数字には出ませんから。

「おいしさ」にこだわった相模屋食料の「木綿とうふ」
写真提供=相模屋食料
「おいしさ」にこだわった相模屋食料の「木綿とうふ」

これまでの不満をエネルギーに転換

【鳥越】経営が現場を数字で管理しようとすると、商品の競争力の根幹が揺らぐ。傾いてきた会社はほとんどがこの流れです。「お客様がおいしいと思うか」は数字に出ないと言いましたけれど、最終的にはお客様に「ここのおとうふはおいしくない」と見放される。結局、自らが頼った数字に裏切られ、数字に出ない部分に復讐されてしまうんです。

そして、実は現場は、「これをやったらお客様に見放される」と分かっている。でも、数字でコントロールされるとなかなか反論するのは難しい。「お前も数字で根拠を示せ」なんて言われたら、黙るしかありません。でも内心にはマグマのように「これではダメだ」という思いが溜まっていく。

ですので、再建はまず工場に行って、そこのおとうふが支持されていた時代を思い出してもらいながら「なにをすればいいか、自分で分かっていますよね。これはやらないほうがいい、と思ったことがありますよね。じゃあ、それ、やめましょうよ。おいしかったころはどこがこだわりだったんですか、じゃあ、それをやりましょうよ」というところから始めます。そうすると、これまでの不満がエネルギーに変わります。再建には、その前向きな燃える気持ちが必要なんです。

だから、やってみれば誰でも思いつく話です。ダメになっていった経験、下向きのスパイラルを逆に辿れば、上向きに登っていくわけです。