2014年に一掃したはずだったが…

しかし、違法ではないとしても、そのなかにどんな有害物質がどのくらい含まれているのかわからない。当時、合成カンナビノイドは米国でも蔓延し、深刻な社会問題になっていたが、筆者が取材したカリフォルニア州サンディエゴにあるカイザー・パーマネンテ病院の急性薬物中毒治療室のジェフ・ラポイント医師はこう話した。

「合成カンナビノイドは中枢神経を刺激する成分がどのくらい入っているかわかりません。なかには本物の大麻より200倍も強いものもあり、服用したら脳は激しい衝撃を受けるでしょう。本当に危険なのは大麻ではなく、合成カンナビノイドなのです」と。

そして、日本でも危険ドラッグで亡くなる人が続出した。

警察庁の集計では、2014年に危険ドラッグを使用して死亡した疑いのある人は計112人に上り、2012年の8人、2013年の9人から10倍以上に増えた。

2014年。道路上の電光掲示板でも注意喚起されていた
2014年。道路上の電光掲示板でも注意喚起されていた(写真=Dai Wat/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

このような状況を受けて、政府は2014年7月、危険ドラッグ業者の取締り強化に乗り出した。厚生労働省の麻薬取締部は総勢260人のほとんどを危険ドラッグ店の取締りに投入。また、2014年12月には「医薬品医療機器等法」を施行し、規制薬物の疑いのある製品が見つかれば、インターネットも含めて全国一律に販売を禁止できるようにした。この異例の厳しい取締りと法改正により、同年4月に全国で215店あった販売店は翌15年7月にゼロになった。

しかし、一掃したはずの危険ドラッグの販売店は「大麻グミ店」として復活している。厚労省の調査では、2023年8月の時点で、危険ドラッグの店舗は約300店に急増したという。いったい何が起きているのか。

規制は追いつかず「イタチごっこ」に

それは、規制対象となっている成分と同等の精神毒性を有する疑いのあるものを販売禁止にしても、業者はそれと似た新たな成分をつくり、合法の大麻製品として売り出す、「イタチごっこ」が繰り返されてしまうからである。

今回の大麻グミによる健康被害の事態を受けて、厚労省麻薬取締部は11月17日、大阪の業者「WWE」の関係先を立ち入り検査し、一部の製品からHHCHが検出された。厚労省はこれを指定薬物に指定することを決定し、12月2日から施行されることになった。

同省はまた、HHCHによく似た化合物が新たに出てくることを想定し、「類似化合物を指定薬物として包括的に指定することについても検討を進めたい」としているが、いままでの流れを見ていると大麻グミも含めて危険ドラッグを一掃するのは難しいだろう。

WWEの社長は「規制により新たに危険な成分が開発される恐れがある。ユーザーに安全に使用できるルール作りを」(朝日新聞デジタル、2023年11月17日付)と主張しており、今後もイタチごっこが続く可能性は非常に高い。