全米で23万部のベストセラー本を著したがん研究者ケリー・ターナー氏は、がんが劇的に寛解した1500以上の症例を分析。世界中の数百人ものがんサバイバーたちにインタビューした結果、奇跡的な回復を遂げた患者たちには10の共通点があることがわかった。そのうちの一つが、「ポジティブな感情を高める」ことだった――。

※本稿は、ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

1日5分の幸せを日常生活に取り入れる

インターネット上で猫の動画が大人気なのは、現代人が手っ取り早い喜びを必要としているからです(「猫の動画」で検索すると37億件もヒットします)。

私たちが幸せを感じたいと思うのは、それが人間の自然な姿だからでしょう。私たちは笑うことや喜びを感じることが大好きで、遊んでいる子どもたちは人間の自然な幸せな状態を体現しています。

しかし、大人になった私たちの多くは、こうした喜びや安らぎを感じられなくなっています。人生と、それにともなうすべての責任や締め切り、プレッシャー、請求書などが、私たちに重くのしかかり、心をかき乱します。そこにがんの診断が加わると、「人生における幸せって何なのだろう?」と考えはじめてしまうでしょう。

実際、現代の大人たちは、かつてないほど不幸せになっています。

うつ病や自殺の発生率は驚くべき速さで上昇(※1)。世界保健機関(WHO)は、世界中で3億人以上がうつ病に苦しんでいて、精神疾患のおもな原因であると指摘しています(※2)。悲しいことに、がん患者はうつ病や自殺の影響を受けやすく、その割合は一般の人の倍です(※3)

うつ病はがん診断の副作用として理解できるものですが、劇的寛解を経験した人たちは、1日に少なくとも5分間、意図的にポジティブな感情を高める行為が、診断によって引き起こされたうつ病を打ち消すのに役立ったと報告しています。

劇的寛解者たちは、たとえほんの一瞬でも自然な喜びの状態に戻ることが、身体の回復に不可欠だったと考えているのです。この理論は数十年にわたる科学的研究によって裏付けられていて、あとで詳しく説明します。

前向きな感情は免疫システムの”ロケット燃料”

劇的寛解を果たした人々にとってポジティブな感情とは、喜びや幸福、満足、平和、感謝、笑い、愛などです。彼らはしばしば、お笑い番組を見て数秒笑うなど、より短期的なポジティブな感情からはじまり、その後、日常的に幸せを実践することでより継続的な平安と満足感が増します。

著書『がんが自然に治る生き方』の中で私は、「前向きな感情は、免疫システムのロケット燃料のようなものだ」と書きました。

ストレスや恐怖を感じると、身体は「闘争・逃走」モードに入り、自分自身を癒やすことができなくなります。これは科学的に確立された事実であり、その逆もまた真なりです。

ポジティブな感情は、こうした心理状態から抜け出し、「休息と回復」の状態になるのに役立ち、免疫システムの治療能力を著しく向上させます。本稿では、愛や喜び、幸せなどの感情を経験したときに身体の中で何が起こるかについてまとめました。

ポジティブな感情を抱くと、まず脳からセロトニンやリラキシン、オキシトシン、ドーパミン、エンドルフィンなどの癒やしのホルモンが血流に分泌されます(※4)

幸せホルモンとも呼ばれるこれらの「癒やしホルモン」は、体内の細胞に対して次のような治癒活動を開始するように命じます。

・血圧、心拍数、コルチゾール(ストレスホルモン)の値を下げる
・血液の循環をよくする
・呼吸を深くして、血液中の酸素濃度を高める
・より多くの栄養素を吸収するために、消化を遅らせる
・白血球や赤血球、ナチュラルキラー細胞の数と活性度を高め、感染症を除去し、がん細胞を探し出して破壊する(アポトーシス)ことにより、免疫システムを強化する(※5)
笑顔でこちらを見ているがん患者
写真=iStock.com/FatCamera
※写真はイメージです