これまでの時代は、マネロン事件の摘発といえばアメリカの強い要請によるものというのが国際金融の常識であった。アメリカは基軸通貨国として世界に金融取引ネットワークを張り巡らせる一方、9.11以降はテロリストによる活動資金を監視する必要性から、マネロンに関して過剰なまでに警戒するようになっている。
日本を含む各国の銀行が、取引の現場を無視したマネロン規制を相次いで導入してきた背景に、アメリカからの強い要請があったことは説明するまでもない。
マネーロンダリング事件の摘発の背後にいたのは?
だが今回、摘発された容疑者のほとんどは中国籍であり、しかも摘発は中国の外交トップである王毅氏のシンガポール訪問直後に実施された。中国では共産党内部の権力闘争に伴う資金流出が激しくなっており、中国当局が何らかの形でシンガポールに圧力をかけた可能性が示唆される。
米中の政治的対立やロシアによるウクライナ侵攻、さらにはパレスチナ情勢の悪化などを受け、国際金融システムは確実に分断化に向けて動き始めている。これまでシンガポールはアジアと欧米の間をうまく渡り歩いてきたが、世界がデカップリングするなか、今後は香港と同様、明確な立ち位置の表明を求められるかもしれない。
アジア地域における中国のプレゼンス拡大や、中国系が7割を超えるシンガポールの人種構成などから考えると、同国の中国化は避けられない可能性が高い。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら