静岡県の「ゴール移動」にJRは田代ダム案を提案

実際は、リニア工事の毎秒2立方メートル減少に対する「全量戻し」解決策が示されたことで、「62万人の命を守る」全量戻しから、「JR東海との約束」という全量戻しにゴールポストをずらしただけである。

ただ国の有識者会議は、大井川下流域への影響はないが、県、流域市町などの納得が得られるよう具体的な方策を協議すべきと中間報告にまとめた。

2022年1月の大井川利水関係協議会は「県境付近の工事中のトンネル湧水の全量戻し解決策が示されていない」として、「大井川下流域への影響なし」とする有識者会議の結論を蹴ってしまった。

このため、JR東海は同年4月、東京電力リニューアブルパワー(東電RP)の内諾を得て、今回の田代ダム案を提案した。

田代ダムは大井川最上流部にある発電用ダムで、東電が毎秒4.99立方メートルの水利権を持ち、山梨県早川町の発電所で使っている。

田代ダム案とは、工事期間中の約10カ月間、東電RPに毎秒約0.21立方メートル分の自主抑制をしてもらい、川勝知事の「県境付近の工事中の湧水全量を戻せ」に応える解決策である。

大井川流域の市町、山梨県知事、早川町長らが田代ダム案を高く評価、また国交省は「政府見解」として、同案が河川法の水利権に触れないことを丁寧に説明した。

解決が見えるとゴールを動かして時間稼ぎ

しかし、解決が見えてくると、再び、「全量戻し」のゴールを変えるのが、川勝知事の常套手段である。

その1つが、昨年10月、山梨県内のトンネル掘削によって、静岡県内の地下水を引っ張るという「似非科学」を持ち出して、山梨県内の調査ボーリングをどこで止めるかを議論すべきだと主張したことだ。

川勝知事は、山梨県内で調査ボーリングを行えば、「全量戻しは実質破綻する」と三度ゴールポストをずらした。

現在も「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を川勝知事は唱える。

しかし、山梨県の長崎幸太郎知事、元静岡県副知事でリニア問題責任者だった静岡市の難波喬司市長が静岡県の対応を批判、県リニア専門部会委員たちまでが調査ボーリングを「やるべき」と主張している。メディアも静岡県の「悪者論」につながると報道し、この問題では川勝知事は「孤立無援」「四面楚歌」の状態となっている。

そこに、田代ダム案の実施策が追い打ちを掛けているのだ。

JR東海は、具体的な実施策をまとめ、流域市町など利水関係者へ説明して、大筋の了解を得た。島田市長らは「関係者の合意が得られるようぜひ進めてほしい」などと述べた。