夫婦は、老いるにつれてますますお互いを必要とする

グレタ・ガルボの言葉は、映画が見せてくれる夢のようなものです。その後の人生が見えません。

たとえば、映画『カサブランカ』は、イングリッド・バーグマンが、元恋人の米国人ハンフリー・ボガートのいきなはからいで、レジスタンスの夫と米国に向けてモロッコを脱出するというハッピーエンドになっています。

しかし、バーグマンはその後、夫との愛の生活を続けられたでしょうか。また、ボガートはどうなったのでしょう。

何事もなく年老い、モロッコの老人施設で昔を懐かしみながら亡くなったのでしょうか。

そんなことを詮索せんさくするのは野暮やぼというものでしょう。

けれど、人生の一瞬を切り取って判断してはならないというのが、私たちの生きる現実なのです。

夫婦は、老いるにつれて、ますますお互いを必要とする人間関係です。くり返される愛憎の中で成熟していくものなのです。

関係に突然幕を下ろす夫婦もいます。離婚や別居の内実も、外側からではわからないと思います。

おそらく、結婚する時には本当に愛し合っていたでしょう。

しかし、相手に対する愛と尊敬は変化します。同時に、愛し合っていた頃の記憶も変わってしまい、「あの時、本当に愛していたのかしら」などと思うようになるのです。

他人の自分に対する記憶は、必ず変わる

私は、こういう記憶の変貌へんぼうほど不思議なことはないと思っています。

記憶は、自分に都合の悪いことは取り込まず、取り込んだ記憶も変貌します。都合が悪い場面はいつの間にか記憶から消えていたり、変わってしまったりします。

そして、記憶のどこがどう変わったのかも、わからないことが多いのです。そのうえ、意識的に抹殺することもあるのです。

このように、自分の記憶ですら不確かです。

まして他人の自分に対する記憶は、必ず変わると言っても過言ではありません。とくに、成功したり幸せになったりしたら、過去の自分についての他人の記憶は変わっているということを理解し、行動に慎重になるべきです。

ですから、過去に何をしたかでなく、今、相手が信頼してくれるように振る舞うことが大事です。

高田明和『孤独にならない老い方』(成美堂出版)
高田明和『孤独にならない老い方』(成美堂出版)

たとえば私は高校時代、うつ状態ともいえる暗い日々を過ごしました。

ところが、私が盛んに本を書き、テレビなどにもよく出るようになってから、当時の同級生の女性と話すと、「高田さんはいつも楽しそうで明るかった」と言ったのです。これも記憶の変貌のひとつだと思います。

私は、人生をどう見るかは、その時に幸せだと思っているかどうかによると考えています。つまり、人生に対する一貫した見方というものはなく、その時その時で変わっていくものなのです。

同じことが夫婦にもいえます。夫婦は運命的な結びつきですが、変貌もしていきます。一瞬を切り取って簡単に決めつけてはならないのです。

夫婦は老いるにつれて、ますますお互いを必要とする。

夫婦とは互いに苦しめ合いながら、それでもいたわり合える関係なのです。
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