2023年上半期(1月~6月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年4月17日)
なぜロシアによるウクライナへの軍事侵攻は長期化しているのか。ジャーナリストの池上彰さんは「理由のひとつにロシアが得意とする情報工作がうまくいっていないことがある。世界一の富豪であるイーロン・マスクがウクライナに提供した衛星通信回線『スターリンク』が戦況に大きな影響を与えた」という――。(第3回)

※本稿は、池上彰『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)の一部を再編集したものです。

プーチン大統領
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2023年4月7日、ミハイル・ムラシュコ保健相と会談するロシアのウラジーミル・プーチン大統領

なぜロシアは「ハイブリッド戦」を展開しなかったのか

もしロシアが軍事行動に出る場合、戦車などによる軍事行動とともに、サイバー攻撃も駆使する「ハイブリッド戦」を展開すると言われてきました。

ところが今回の戦況の推移を見ると、ロシア軍のサイバー攻撃が有効だったとは、必ずしも言えない状態が続きました。

たとえば2014年にロシアがクリミア半島に電撃的に侵攻して占領した際には、ウクライナ政府のコンピューター網にサイバー攻撃が仕掛けられ、政府の機能がマヒしてしまったケースがありました。

そこで今回も同じような攻撃が仕掛けられるのではないかと危惧されていたのですが、それほどの被害が出ないで済んでいます。2014年以降、アメリカがサイバー攻撃を防ぐ技術や装備をウクライナに提供していたからです。

つまり、ロシアのサイバー攻撃は、アメリカが供与した技術や装備によって防がれたというわけです。実際、どの程度の攻撃が行われたのか。