求められる「イトーヨーカ堂の切り離し」

そんなガバナンスリスクを抱えた井阪セブン&アイが、そごう・西武問題と同様にアクティビストから改善を求められている課題が、イトーヨーカ堂の切り離しによるコングロマリット・ディスカウントの解消です。2015年に米サード・ポイントがヨーカ堂の切り離しを求めていますが、井阪体制下で遅々として進まぬ改革への取り組みに対し、しびれを切らしたバリューアクトが、コンビニ事業のスピンアウトという形で22年に再度同じ要求を突き付けたのです。

度重なるアクティビストからの改善要求に対して今年3月に井阪氏が出した答えは、不採算店舗の閉鎖、アパレル事業からの完全撤退と「食」への集中などからなる、「ヨーカ堂の切り離しはしない」という改革案でした。

ここで驚くべきは、ようやく出された改革案の中身が、20年前に瀕死ひんしの状態にあったダイエーが打ち出したスーパー事業改革案とそっくりだったことです。ダイエーはご存じの通り、この改革案では窮地を脱することができず、ほどなくイオン傘下となっています。

創業家に対する忖度が指摘されている

井阪セブン&アイがヨーカ堂の切り離しを渋る背景には、創業家に対する忖度そんたくがあると海外ファンドなどから指摘されています。今年3月、ヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏が他界しましたが、直後に故人の次男・順朗氏がセブン&アイ代表取締役に就任し、ヨーカ堂の事業を統括すると発表されました。創業者亡き後もヨーカ堂は創業家とともに守る、というトップのメッセージとも受け取れる人事でした。

セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長
写真=時事通信フォト
決算説明会で不振に陥っている百貨店・スーパー両事業の構造改革を発表するセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長=2019年10月10日、東京都渋谷区

バリューアクトは当然、改革案に納得せず、経営陣の交代を求める株主提案を提出しました。セブン&アイはこの株主提案をなんとか退けましたが、株主からの評価は厳しく、井阪社長への信任は約76%と前年の約95%から約20ポイントも下げてしまいました。

2019年にはセブンペイ事業の撤退という大きな痛手もありました。同年7月にスタートした独自のデジタル決済サービスは、セキュリティの甘さから不正利用が相次ぎ、わずか数日で実質利用停止。3カ月でサービス廃止に追い込まれました。

事業撤退の実損は約30億円とされていますが、これにより同社はデジタル戦略で大きく出遅れたわけで、損失の大きさは計り知れません。