さて、全社員が出動していく時代には、とりわけ現地との“接点”となる「人」がどう活躍できるかで、戦いの行方も変わっていくのだろう。社員は何をどうすればいいのか。
「求められるのはチームワーク。そのためには、メンバーへのリスペクトは不可欠になります。相手への尊敬がないチームワークであってはならない」と布野は40年にわたる自身の経験から話す。
元商社マンの益子は「特に、上から目線になってはいけない。その国の人たちと一緒に事業をしているという気持ちを持つことが大切です」と言う。
鈴木修は「その国の食べ物を何でも食べること。そうすればすぐに現地に馴染める。僕はタイではメシを食べずにドリアンばかり食べている。まぁ、一番大切なのは、現地の人に対し指導というより、一緒にやりましょうという気持ち。ハートを伝えることです」などと言う。
こうしたなか、日産の川口均常務は言う。「日産はダイバーシティ(多様性)を導入しているので、現地とか本社とか、区別がない。国籍も性別も関係なしに、みんなが一緒なのです。他社とは、やや違うかもしれません」。
日産では海外現地法人の社員でも、優秀な人は本社の幹部に登用される人事システムになっている。キャリアコーチと呼ばれるスカウトマンが、世界中の従業員のなかから、将来の幹部候補を日夜探している。男女の別や国籍、勤務地などとは関係なしにだ。
さらに、ナック(ノミネーション・アドバイザリー・カウンシル=NAC)という人事委員会があり、委員であるゴーンや志賀たちが候補者と密かに会い、場合によっては登用する仕組みだ。
自動車に限らず、日本の大手企業で現地法人に勤務する外国人を本社に登用する会社は、そうはない。「インドのマルチ・スズキならば、マルチで偉くなってもらう。浜松の本社に登用はしない」(鈴木)のが一般的。三菱自工の益子も「日産は進んでいる。当社はやはり現地法人で出世してもらう。現地法人の役員は、できる限り現地の人にやってもらう方針。労務問題も起きるので」と話す。