最初に逆輸入を始めた日産の志賀俊之COO(最高執行責任者)は言う。

「自動車は家電とは違う。安易に生産の海外移転を進めてはいけないのです。なぜなら、工場とR&D(研究開発)とは車の両輪だから。国内に生産を残さなければ、日本のものづくりが衰退してしまう」

日産の中には、海外生産推進派と国内生産維持派と2つの勢力があると見られるが、志賀は間違いなく維持派だ。

研究開発部門と工場が“二人三脚”で役に立つ技術や斬新な商品をつくり出してきたのが、日本の製造業。両者は相互にやり取りをしながら、人間臭く、有機的に結びつき、他社にはない差別化したものづくりを生んできた。工場が海外に離れると、「開発者の“思い”が生産現場に伝わらなくなる」(電機メーカー技術者)。そして両者が離れることで必然的に、コストやつくりやすさを優先する無機質な“データ”が重要となり、製品のコモディティ化は進んでいく。

現実に「R&Dさえ国内に残せば、工場を海外移転させても問題ない。開発力は維持されるから」と1970年代までの米国の電機業界、さらに85年以降の日本の電機業界で言われ、そのまま実行された。しかし、前者はパナソニックやソニーに席巻され、後者は韓国メーカーからの追い上げを食っている。

土屋教授は言う。

「トランスプラント(海外の低コストの工場)への生産依存度が高まると、商品は汎用品化してしまう。ものづくりからのフィードバックがないと、開発は弱体化してしまうのです。雇用という点では最近のアップルが象徴的ですが、雇用の貢献は現実にものをつくっているアジアに対して大きく、開発と商品企画を残した米国では小さいのです。日本の自動車ではトヨタ、08年までフォード傘下だったため国内生産比率の高いマツダ、浜松地域に生産の根を張るスズキといった国内生産を大切にしている会社が、長期的には勝てると思います」