口がうまい以上に、人の話を聴くのがうまい
インベストメントバンカーは口八丁手八丁と思われているが、むしろ人の話を聴くのがうまい人が多い。
同い年の友人で、米系投資銀行JPモルガン・チェースの中央アジア・トルコ・中東地区のCEO(最高経営責任者)を務めたムラード・メガッリというエジプト系米国人バンカーがいたが、彼と電話で話すと、相槌も打たずにじっとこちらの声に耳を澄ましているので、真空に向かって話しているような錯覚に陥ったものである。
筆者が勤務した邦銀の国際審査部にも、かつて中南米でマンデート(主幹事)ハンターとして活躍し、筆者がやっていたようなソブリン・準ソブリン(国家・国営企業向け)案件の可否を実質的に決めていた上席審査役がいたが、彼も電話で話すと真空のようになってこちらの話にじっと耳を傾けるタイプだった。こういう人たちは数少ないが、皆、仕事ができる人たちだった。
筆者は一度、ある難しい案件で英国人と交渉していたとき、電話の会話を録音し、あらためて聴いてみたことがあるが、声のトーン、間合い、言い回しなどから相手の心理が手に取るようにわかって驚いたことがある。ムラードや上席審査役は、言葉だけでなく、声のトーンなどにも注意を払って、こちらの真意を読み取ろうとしていたのだろう。
(ムラードとは、彼の二卵性双生児のシスターでジャーナリストのモナや筆者の妻も交え親しく付き合っていたが、残念なことに2011年に、乗っていた小型ジェット機が北イラクで墜落し、亡くなってしまった。)
エリートでも英語はTOEIC750点で十分
筆者がロンドンの国際金融市場で働いてみて実感するのは、(米国人や英国人等のネイティブは別として)英語がうまい人はそれほど多くないということだ。世界中のバンカーと仕事をしたが、だいたいTOEIC750点前後というイメージである。
典型的なのが、筆者が所属した国際審査部の上席審査役で、スペイン語とポルトガル語の専門家で、英語は「and」と日本語の「その、何だ」を混ぜた「ザンナー」という意味不明の語を頻繁に混ぜて話す人だった。米銀に勤務する筆者の友人は「あれはズーズー弁の英語ですね」と苦笑していた。
しかし、ブラジルのマルシーオ・モレイラ経済相が来日して、東京のパレスホテルで日本の民間銀行向けにブレイディ・プラン(債務削減策)の説明会を開いたとき、他の銀行の出席者たちが大人しく聴いている中でただ一人、こう詰め寄った。