2年半で1人の著者が21冊
なぜ、2011年以後に「年代本」が多く刊行され、またベストセラーにもなっているのでしょうか。まず雑駁には、従来的なライフコースが揺らいでいるためだと考えることができます。仕事にしても、結婚およびその後に連なるライフイベントにしても、将来の展望を楽観的に抱けるような状況ではますますなくなっていることを社会的背景として指摘することができるでしょう。
しかし、2011年以前についてもこのような「揺らぎ」は同じように指摘できるはずです。社会的背景論は「年代本」が売れるための条件ではありますが、2011年に突如ブームが起きたことの理由づけとしては説得的とはいえません。
では、2011年の震災が人々の「揺らぎ」の意識を加速させたと考えるべきでしょうか。それも背景要因の1つであるとは考えられますが、前回テーマの「心」関連書籍と同様に、「年代本」にも震災関連の文言はほとんど出てきません。「年代本」が、千田さんや川北さんの著作に限らずに次々と刊行されることの要因としては、やはり説得的な考えといえそうにはありません。
「年代本」のブームは単純に、ヒット作を追いかけて類似タイトルの書籍が積み重なった結果と考えたほうがすっきりするように思えます。たとえば「年代本」を多く手がけている著者の一人、千田琢哉さんのホームページでは、「千田琢哉の本」という著作一覧をみることができます。
それによると、2010年4月に刊行された『20代で伸びる人、沈む人』(きこ書房)以後、約2年半の間に、実に21冊もの「20代」および「30代」本が千田さんの手によって手がけられていることがわかります(9月10日調べ。共著含む)。その多作ぶりには驚嘆するばかりですが、この多作にこそ、「年代本」ブームについて考える手がかりがあるように思われます。
連載の1つめのテーマ「自己啓発書ガイド」についての回で、ヒット作の「二匹目のドジョウ」が狙えると思う感覚を「太い」と表現した編集者の話をしました。千田さんの「20代」「30代」本の多作、ひいては「年代本」の近年の多発もこの観点から理解できると考えます。つまり、千田さんや川北さんの書籍がヒットしたため、本人に「ぜひあの本のような」という書籍の企画を持ち込む、あるいはそのような書籍が書けそうな人に執筆してもらう、少し異なった内容の本でも「20代」「30代」「40代」といった言葉をタイトルにつける、等々。
「年代本」のブームはこのように、社会的背景から考えるよりも、自己啓発書制作プロセスの内側から考えるほうが実情に即しているように思えます。というより、「年代本」のブームは、まさに近年の自己啓発書制作のあり方を象徴するような動向なのではないかと考えられるのです。