ヒト属の睡眠は徐々に進化してきた

地球上の生物は全て活動と休息のバイオリズムを持っていますが、ホモサピエンスに至るヒト属の睡眠は、徐々に進化してきました。例えば、深い眠りのノンレム睡眠と、浅い眠りで夢はみるが全身の筋肉は弛緩しかんしてしまうレム睡眠が、約90分交代で訪れます。そのある種無防備なレム睡眠を取るようになったのも、サバンナの地面で仲間と暮らすようになり、木に摑まったまま眠る必要がなくなったからと言えます。

また、私達は一人ひとりが、概日リズム、最適な睡眠時間、朝型か夜型かのクロノタイプ(概日リズムの型)に、個人で異なる遺伝傾向を持っています。

睡眠や夢のメカニズムとその役割は全ては解明されていませんが、睡眠中や、ただボーッとしている間も、意識があって脳神経細胞が繫がり、感情や思考が発生するというのは、AIにはない脳の神秘的な働きです。

空を見つめる女性とたくさんの上向きの矢印
写真=iStock.com/metamorworks
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「ボーッとしている時」にも脳は働いている

私達の脳は、意識的に集中して思考や発言をしている時だけでなく、睡眠中もボーッとしている時も活発に活動しています。21世紀に入って、ワシントン大学医学部のマーカス・レイクル教授の研究により、意識的な活動をしていないときにも脳は働いていることが判明しました。

意識下とは異なるこの脳の状態は「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれています。DMNがあるおかげで、色々と考え事をしながら通勤したり、突然、市中で名前を呼ばれても反応できたりします。逆に、作業を実行しているときの脳の状態は実行に集中しているため「タスクポジティブネットワーク(TPN)」と呼ばれています。

脳のエネルギー消費の割合は、議論や読書等の意識的な活動は5%程度で、意識的な活動をしていないときに60~80%が使われています。何も考えずにボーッとしている時のほうが、仕事をしているときの20倍エネルギーを使っているというのは、理解し難いかもしれませんが、携帯電話が電波の悪い山の中などでは様々な基地局の電波を探しに行く為に、エネルギーの消費が多く電池の減りが早いのと同じだと私は理解しています。

ボーッとしている状態の時は、異なる基地局と電波をやり取りするように、複数の領域が分断的に活性化し、思考や感情が移ろっている状態といえます。