睡眠時間の不足と生産性の低さには相関がある

さて、運動の必要性については誰もがある程度認識しているのに対して、睡眠の重要性の認識は、特に日本においては進んでいません。日本人は受験勉強でも仕事においても、夜遅くまで長時間、オフィスで頑張る人が、未だに評価される傾向があります。

フランスのヘルスケアスタートアップ、ウィジングスが睡眠デバイスで各国ユーザの睡眠について調査した結果、2020年の日本人の平均睡眠時間は6時間22分と14カ国中最下位でした。また、日本生産性本部によると、2020年の日本の就業者1人あたりの労働生産性は7万8655ドルで38カ国中28位と低く、主要7カ国(G7)で見れば最下位になっていて、研究者によって「睡眠時間の不足と生産性の低さに相関がある」とも指摘されています。

慶應義塾大学の山本勲教授の分析によると、社員の睡眠時間が長い上位20%の企業と下位20%の企業で売上高経常利益率に3.7ポイントの差があり、睡眠以外の要素を統計的に除外して算出しても、1.8~2.0ポイントの差が生じたとされています。

高層ビルが立ち並ぶビジネス街
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日本人の睡眠不足による経済損失は15兆円規模

睡眠時間を削ると脳のパフォーマンスが著しく低下します。6時間睡眠を14日間続けると48時間徹夜したのと同程度の認知機能になります。別の研究では、6時間睡眠を10日間続けただけで、24時間徹夜したのと同程度の認知機能になるという研究もあります。

具体的には、日本酒1~2合飲んだような状態で仕事をしているということになります。また、2016年の世界的シンクタンクのランド研究所の試算では、日本人の睡眠不足による経済損失は15兆円規模に上っているとされています。

日本人に特有の長時間労働と慢性的な睡眠不足は、高度成長期の悪しき残滓です。

終業から始業まで一定時間の休息を義務づける制度を導入した企業への助成金支給や税制優遇がEU企業からようやく始まり、日本でも徐々に広がりを見せています。仮眠も含めて睡眠時間を増やして労働生産性の向上につなげる狙いがあり、徐々に変化の兆しはあります。