なぜ旅行先や出張先のホテルではなかなか寝つけないのか。睡眠研究者のクリスティアン・ベネディクトさんと作家のミンナ・トゥーンベリエルさんは「これは慣れない場所での危険を避けるために、脳の片方が休めていない状態にある。石器時代の名残の「ファーストナイト・エフェクト(第一夜効果)」と呼ばれている」という――。

※本稿は、クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル『熟睡者』(サンマーク出版)の第7章「眠って『感情脳』を整える レム睡眠に『ストレス』を処理してもらう」の一部を再編集したものです。

白い枕とベッドシーツ
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一晩寝たら悩みが消えるのはなぜ?

夜ベッドに横になり、右を向いたり、左に転がったりしながら、その日友達に放った自分の発言についてくよくよと思い悩む。「言いすぎただろうか。傲慢ごうまんだと思われたかな。もしかしたら怒っているかもしれない。明日にでも謝るべきだろうか」そう考えながら眠りにつく。

ところが翌朝になると、まるで魔法にでもかけられたように悩みが跡形もなく消えている。「なぜあんなに心配したのだろう」と自分でも不思議に思う。「確かに言いすぎたかもしれないけれど、そのぐらいで私たちの友情が壊れるわけがない!」

レム睡眠は左右の大脳半球の連携を促す。それによって、様々な強度の新しい神経細胞の接合が形成され、それが新しいアイデアや解決策につながることがある。

感情を司る扁桃体が整えられている

レム睡眠、つまり夢を多く見る睡眠ステージがもつもうひとつの驚くべき特徴を紹介しよう。レム睡眠のおかげで私たちは、自分の感情とうまく付き合い、それによって精神的なバランスを維持できるのだ。

就寝前にはストレスを感じていたことがレム睡眠の間に処理されるため、朝には心が安定し、地に足がついた状態で目を覚ませるようになる。

逆にレム睡眠が少ないと、次の覚醒時に、脳の感情を司る扁桃体は前頭葉の理性の声を聞きとることができない。感情的に絶えず緊迫した状態にあると、身体的ストレスを引き起こし、健康を損なう可能性がある。別の言い方をすると、覚醒時に扁桃体が前頭葉の言うことを聞き入れるための前提条件が、レム睡眠時に整えられるようである。

レム睡眠中に行われる感情に結びついた記憶のトゲを丸める作業は、私たちの体が生来備える感情の処理手法だ。

それによって、特定の感情に取りつかれることや、感情障害の発症を避けることができる。