佐藤孝幸さんからのアドバイス

弁護士、米国公認会計士
佐藤孝幸

1969年生まれ。外資系銀行勤務の傍ら1年の勉強で米国公認会計士の資格を取得。その後、米国の大手会計事務所に勤めながら2年の独学で司法試験に合格。著書に『「要領がいい」と言われる人の、仕事と勉強を両立させる時間術』ほか。

資格試験に挑戦するとき、私はどんなに難しい資格も2年以内に取得すると決めていました。幸い司法試験も2年目で合格しましたが、もし落ちていたら、そこで断念していたと思います。

なぜ2年で区切るのか。人間が支払うコストのうち、もっとも高くつくのは時間だからです。資格取得によって金銭的なリターンを得ても、時間に換算すると、回収できるのはせいぜい2年間分。資格取得にそれ以上の時間を費やしても損するだけです。また、2年かけても取得できない資格は、最初から適性がないと考えたほうがいい。適性のない資格に固執するより、別のことに時間を投資したほうが人生のチャンスは広がるはずです。

ところが時間を“損切り”できず、チャンスを見逃してしまう人が少なくありません。株式投資では、保有株の株価が下がったときに損を承知で売ることを損切りと呼びます。損を確定させるのはもったいない気がしますが、そこが落とし穴。下がり続ける株に固執するより、見切りをつけて他の有望株に資金を移したほうが、トータルで儲かる可能性が高い。

これは時間も同じです。一定の時間を超えたら、躊躇せずに損切りして時間を他のものに投資すべきです。目標に向けて費やした時間は、一種のサンクコスト(埋没費用)です。サンクコストとは、事業に投資した資金のうち、撤退しても回収できない資金を指します。

本来、未来の利益を最大化するためには、サンクコストを無視したうえで、事業継続か撤退かの意思決定をする必要があります。ところが人間の心理は不思議で、サンクコストが大きくなるほど、それを無視できなくなって非合理的な判断を下します。

時間についても、同じ罠にとらわれがち。あとから「あそこでやめておけばよかった」と後悔しないためにも、深入りする前に時間を損切りする習慣を身につけてください。

(相澤 正、久間昌史=撮影)
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