「コシヒカリ発言」直後に不信任決議案提出を模索していた

1年半以上前の2021年11月24日の静岡県議会臨時会で、いわゆる「コシヒカリ発言」を巡り、法的拘束力のない辞職勧告決議案が賛成多数で可決された。

辞職勧告直後の報道陣の取材に、川勝知事は「任期を全うする」とした上で、「自らにペナルティを科すため、12月の給与と期末手当(ボーナス)を全額返上する」と明言した。これが給与等未返上問題の始まりだった。

10月の参院補選での「コシヒカリ発言」への批判を受けて、川勝知事は11月9日の臨時会見で、「発言が切り取られ、誤解を生んだことで御殿場市民らを傷つけた」などと「誤解を生んだ責任」を認めただけで、発言の撤回、謝罪等をしなかった。

2019年10月の参院選補選で野党候補を応援する川勝知事(静岡市内)
写真=筆者撮影
2019年10月の参院選補選で野党候補を応援する川勝知事(静岡市内)

これに、自民と公明の県議団などは強く反発、9日に連名で抗議文を提出するとともに、不信任決議案提出の準備を進めた。

9日の抗議文提出から11月24日の臨時会まで約2週間もあり、不信任決議案の提出を想定できていた。つまり、時間的な余裕が十分にあった。結局、多数派工作が見通せず、臨時会前日の23日に辞職勧告決議案に切り替えた。

川勝知事が公選法を知らなかったはずがない

川勝知事は1期目任期満了の2013年6月、初当選の公約通り退職手当約4090万円を全額返上している。

公職選挙法の規定で政治家の知事は選挙区内での寄付行為ができないため、前年9月県議会で知事自らが退職金不支給の条例案を提出し、可決されていた。

この経験から、コシヒカリ発言で2021年11月24日に「給与等の全額返上」を表明した際にも、県議会で条例案を可決する必要があることを川勝知事は承知していた。

ところが、「給与等の全額返上」を明言したのにもかかわらず、12月県議会に条例案は提出されなかった。これはあまりにもおかしいことになる。

12月2日の会見で、NHK記者が「全額返上と言ったが、条例案が県議会に提出されていない」と疑問を呈した。

川勝知事は「この件について(事務方で)調整してもらっている」と回答した。

記者は「調整も何も、その気であれば、定例会初日に提出できた」と問い詰めた。

これに対して川勝知事は「調整がなかなか厳しいという報告を受けた」と逃げたから、記者は「自民党がどう考えるかどうかは別にして、条例案を出すことはできるのではないか」とさらに突っ込んだ。

つまり、実際に給与等の返上ができるかどうかは別にして、自らがペナルティとした「給与等の全額返上」の条例案を提出しないのはおかしい、と厳しく追及したのだ。

この追及に対して、川勝知事は「ともあれ、議会で決めていただくことだ。それなりの調整はルールであり、その調整に(事務方が)汗をかいてもらっている」と他人事のような回答でごまかして、逃げてしまった。