まとまりきれない「安倍元首相なき安倍派」

一つ目の理由は、自民党内に有力なポスト岸田が見当たらないことだ。

岸田政権の主流派は、麻生太郎副総裁が率いる第2派閥・麻生派(55人)、茂木敏充幹事長が率いる第3派閥・茂木派(54人)、そして岸田首相が率いる第4派閥・岸田派(46人)である。非主流派は二階俊博元幹事長が率いる第5派閥・二階派(41人)と菅義偉前首相が束ねる無派閥グループだ。そして中間に位置するのが、最大派閥・安倍派(100人)である。

二階氏や菅氏が安倍派と組めば党内の過半数に達し、岸田政権は一転して窮地に追い込まれる。安倍派を分断して「反岸田」で結束させないことが政権維持の基本戦略といっていい。

安倍派は安倍晋三元首相の一周忌(7月8日)を経ても後継会長が決まらず、岸田首相の思惑通り、内部抗争を抱えたままだ。萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長のいわゆる「5人衆」が譲らず、リーダー不在の集団指導体制の様相をみせている。さらに一世代上の下村博文会長代理が「5人衆」を批判するなど混迷を深めている。

政界引退後も影響力を残してきた安倍派重鎮の森喜朗元首相は萩生田氏を後継会長に推しているが、安倍派の半数以上は森氏の政界引退後に政界入りしており、森氏の鶴の一声で決まる気配はない。当面は「会長は萩生田氏、総裁候補は西村氏」とする案や「萩生田・世耕共同代表」とする案が飛び交うが、決定打に欠ける。

東京にある自由民主党の本部
東京にある自由民主党の本部(写真=Joe Jones/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

岸田首相を脅かす「茂木幹事長」

会長レースのトップを走る萩生田氏は8~9月の人事で幹事長職を射止め、一気に安倍派会長に就く戦略を描く。

茂木氏が岸田首相の後見人である麻生氏の後押しで幹事長に就任したのを契機に派閥会長の座をつかんだように、岸田首相に早大の先輩として助言を重ねてきた森氏の威光を背景に幹事長に昇格した勢いで安倍派会長にのしあがろうという算段だ。

だが、萩生田氏の思惑通りに事は進まないだろう。岸田政権の基本戦略は安倍派分断であり、わざわざ萩生田氏の会長就任を後押して安倍派の結束に手を貸すメリットはない。萩生田、西村、世耕のライバル3氏を留任させ、来年秋の総裁選まで張り合わせておくのが最適解だ。

安倍派が内紛状態のなかで、岸田首相を脅かす一番手は茂木幹事長である。

茂木氏は昨年11月に内閣支持率が急落した後、ポスト岸田への意欲を隠さなくなった。5月には訪米して「次期首相」としての存在をアピール。7月にはウクライナ支援の拠点であるポーランドに加え、来年のAPEC議長国ペルーやG20議長国ブラジルを訪問し、茂木政権誕生への布石を露骨に打った。内政でも官邸に十分根回しすることなく児童手当の所得制限撤廃を打ち上げるなど独自色を強め、岸田首相との亀裂は深まるばかりだ。