日本人に嫌われても、バイデンには愛されている

最後の理由は、岸田政権がバイデン米政権の強い支持を得ていることだ。

岸田首相は昨年末、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費を大幅に増額する安保3文書を閣議決定し、「端的にいえば、戦闘機やミサイルを購入するということだ」と語気を強めた。その後、専守防衛を逸脱すると指摘される巡航ミサイル・トマホーク400基を米国から2000億円で一括購入し、米タイム誌に「真の軍事大国を目指している」と持ち上げられた。

防衛費増額に加え、ウクライナ復興への1兆円にのぼる支援表明も、中国に対抗するための日韓関係改善も、岸田外交の実像はバイデン政権の言いなりであることは疑いない。6月にはバイデン大統領が日本の防衛費増額について「広島を含め3回、日本の指導者と会い、彼を説得した」と口を滑らせた。

日本政府の申し入れで慌てて訂正した後も「日本の軍事予算は戦後ずっと増額されてこなかったが、我々を助けるために大幅に増額された」と公言し、岸田首相を「手下」としか思っていないことをうかがわせた。

2023年5月21日、G7広島サミットに出席した岸田首相
2023年5月21日、G7広島サミットに出席した岸田首相(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

結局、バイデン頼み…

岸田首相は7月、NATO首脳会議が開かれたリトアニアを訪問した際も、欧州首脳たちの面前でバイデン氏から「この男がウクライナのために立ち上がると思った人は欧米にはほとんどいなかった」とベタ褒めされ、満面笑みを浮かべた。バイデン政権の支持を受けている限り、自民党内の「岸田降ろし」を封じて政権を延命できると踏んでいるのだろう。

裏を返せば、岸田政権の「バイデン頼み」はアキレスけんともいえる。バイデン氏は来年11月の大統領選への出馬を表明しているが、再選を果たして任期を終える時には86歳になる。最近、聴衆の面前で何度も転んだり、言葉が詰まったり、固有名詞を間違えたり、高齢不安をさらけ出す出来事が続出し、民主党内からも「バイデンでは勝てない」との声が上がり始めた。

トランプ氏が返り咲いても、民主党の他の政権が誕生しても、「ウクライナ支援疲れ」から米国の外交政策は大転換して岸田政権はハシゴを外される恐れがある。

来年は自民党総裁選と米大統領選がある日米同時政局の年だ。岸田首相が国内に敵なしだとしても、バイデン再選の黄信号が灯れば、日本政界にも波及して、岸田首相にも勇退を求める声が高まるだろう。