安倍氏を唯一の後ろ盾としていた高市早苗経済安保担当相は安倍氏急逝ですっかり存在感を失った。岸田派ナンバー2の林芳正外相は有力候補だが、第4派閥に過ぎない岸田派から2代続けて首相を輩出することは現実的ではない。麻生氏はすでに82歳で「選挙の顔」にはなり得ず、菅氏も74歳で健康不安説がくすぶる。

茂木氏さえ潰せば、ポスト岸田の有力候補は見当たらない。内閣支持率が続落しても「岸田降ろし」の狼煙が上がらない最大の要因はここにある。

野党同士の激しいいがみ合い

二つ目の理由は、野党がバラバラであることだ。

立憲民主党の政党支持率が日本維新の会に追い抜かれる状況が定着し、野党の主役は維新に移った。維新の馬場伸幸代表は「立憲をぶっ潰す」と公言し、打倒自民よりも打倒立憲を優先して次の衆院選で野党第1党の座を奪うことを目標に掲げている。立憲との選挙協力は断固拒否し、立憲を上回る候補者を擁立する方針だ。

立憲は通常国会で維新と共闘して選挙協力につなげる戦略を描いたものの、あえなく頓挫し、維新と罵り合う事態に陥った。維新に接近するために断ち切った共産党やれいわ新選組との選挙協力を再構築するのも容易ではない。

泉健太代表は維新や共産との選挙協力を完全否定したものの、小沢一郎氏らの反対意見に突き上げられて前言を翻し、地域事情に応じた候補者調整に取り組む方針に転じたが、自公与党に対抗して野党候補を一本化させることはほぼ絶望的な状況だ。

ただでさえ支持率が低迷しているなか、自公与党が候補者を一人に絞り込んでくるのに、野党候補が乱立したら、たった一議席を争う小選挙区で勝ち目はない。どんなに内閣支持率が低迷しても、いつ解散総選挙を断行しても、野党がバラバラでは自公与党が政権を失うことはあり得ない。

維新が大勝しても“自公政権”には全く影響がない

万が一、維新が大躍進して自公与党が過半数割れに追い込まれる事態が発生しても、維新との競争に敗れ弱体化した立憲の残党を連立政権に引き込んで「反維新」を大義名分とした自公立連立政権を築けば良い。

民主党政権で消費税増税を主導した野田佳彦元首相や安住淳元財務相、枝野幸男元官房長官ら立憲重鎮は、財務省と密接な関係のある岸田派と極めて近く「維新より自民がマシ」という立場だ。

内閣支持率と政党支持率を足して50%を切ると政権は持たない――永田町では青木氏がかつて唱えた「青木の法則」が信じられている。これに照らすと岸田政権は危険水域に近づいているが、「青木の法則」は民主党が政権交代を掲げて勢いづいていた時代に生まれたものだ。

野党バラバラの政治状況では内閣支持率や自民党支持率がどんなに落ち込んでも、それに代わる選択肢はなく、政権は持ち堪えてしまう。いつ解散総選挙に突入しても政権交代が実現することはないというリアルな現実が、政界から緊張感を奪い、岸田政権を延命させているといっていい。