保険適用は「価格の透明性を高める」のか

出産費用の保険適用を行う理由として、出産費用の「透明性を高めるためだ」という意見がある。それでは保険適用することで、本当に価格設定の透明性が高まるのだろうか?

日本で医療保険の適用を受けている全ての医療サービスの単価は、中医協(中央社会保険医療協議会)というところで決められ、1~2年に1回のペースで見直しが行われている。レストランに行くとメニュー表があり、それらの隣に価格が載っているように、日本の全ての医療サービスの単価は、中央集権的に決められているのである。

確かに価格はこの会議の場で議論して決められている。しかし、それが必ずしも価格設定の透明性を高めることにはならないことには注意が必要である。

中医協は、健康保険などの保険者を代表する委員7名、医師・歯科医師・薬剤師を代表する委員7名、公益を代表する委員6名で構成されている。本来、医療サービスの適正な価格を決めるのであれば、医療経済的な評価をして、最も適切な価格を設定するべきだろう。だが実際には、しばしば政治的なパワーゲームの中で価格が決まっている。

日本の医療報酬制度のことを、アメリカの医療経済学者に説明すると、「最適な価格が分からない中で、どうやって価格を設定しているのか?」とよく聞かれる。

そうなのである。医療サービスは最適な価格を評価することが極めて難しいのである。だからこそアメリカは医療サービスを市場原理で提供することで、需要と供給のバランスの中で、最適な価格を設定させているのだ。

もちろん、日本がアメリカのようにするべきだとは思わない。日本の医療制度の方が、アメリカよりもずっと優れていると考えられるからである。しかし、「医療の最適な価格は容易に分かる」というナイーブな考えは捨てた方がいいだろう。何が最適価格か分からないなかで、暗中模索しているのが、今の日本の医療の実態なのである。

やるべきは出産育児一時金の引き上げ

今回の政策が、出産育児一時金に関わる国の予算を抑制することが目的であるのならば、出産費用の保険適用は理にかなっているだろう。しかし、もし目的が少子化対策なのであれば、この政策は逆行しており、少子化を悪化させる可能性が高い。あらゆる政策はまずゴールを明確に設定し、それを達成できる可能性を最大化されるように制度設計するべきである。

もし本当に「異次元の少子化対策」を実現したいのであれば、やるべきは出産費用の保険適用化ではなく、出産育児一時金の引き上げであると私は考える。

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