米インド太平洋軍司令部はどう分析したか
米軍は世界に地域統合軍を展開しています。インド太平洋にはアメリカインド太平洋軍(USINDOPACOM)、その下に陸海空軍の部隊があり、日本でも有名な第7艦隊はその指揮下にある部隊です。
その司令部が、定期的に雑誌を発行しています。しかも英語のみならず、日本語、中国語、ロシア語、ベトナム語等10カ国語版があり、そして……無料です。インターネットで読み放題です。その雑誌、Indo-Pacific Defense Forumの2019年の44巻には、以下のような記事が掲載されています。(28~30頁)
「中国人民解放軍の北極進出は2015年に実現した。当時のバラク・オバマ米大統領のアラスカ訪問中、中国人民解放軍海軍の艦船5隻がアラスカ沖のベーリング海を航行した。同海域で中国軍艦の航行が確認されたのは史上初めてである。中国軍艦はアラスカ半島から伸びるアリューシャン列島周辺の米国領海12海里内を通航している。……これは明らかに、中国が北極圏シーレーンと中国の経済的利益を確保するために軍事展開を進めることができるということ、そして同国がそれを実施するということを米国と北極沿岸国に知らしめる中国の牽制である」
さらに、記事はこう続きます。
「中国および他のアジア諸国から北極圏への通路となるベーリング海峡周辺を中国軍艦は航行している。この海洋チョークポイントは北極海航路と北西航路両方の終端であり、北極圏を通過するエネルギー輸送船や貿易船はすべて同海峡を通過しなければならない。今回の中国海軍の航行は、海洋における覇権力と同海域を強制的に保護する能力を同国が備えていることを実証するものとなった」
軍艦を派遣して国家としてのメッセージを伝える、昔で言えば砲艦外交、戦略的コミュニケーションの典型と言える行動です。「ペリーが浦賀に1853」、試験のために記憶している人は多いと思います。これが砲艦外交です。
戦略的コミュニケーションについて本格的に勉強したい方には、青井千由紀先生の『戦略的コミュニケーションと国際政治 新しい安全保障政策の論理』(日経BP)がオススメです。無料で、という方には拙稿「戦略的コミュニケーションとFDO」が、海上自衛隊幹部学校のホームページ上で読めます。