学習指導要領に「身だしなみ指導」はない

生徒にとってみれば、自分のチェック時間以外は待機時間となります。貴重な50分授業のうち、49分40秒は無駄な時間となってしまう気がしました。と、今になって好き勝手振り返っていますが、身だしなみ指導については、「今の全日制高校はこういうものなのか」と、私は無批判に受け入れてしまいました。

部活動の強制加入のように、「改めるべきだ」と進言したこともなかったのです。仮にそのように意見したところで、「制服を着崩す生徒が出てくる、その予防だ」と言われたら黙ってしまったことでしょう。

しかしそもそも、毎日制服を着ることが、教育目的や生徒の安全安心のために必要不可欠なことなのでしょうか……。同様に考える教師もいたと思いますが、そういった根源的な問いも、「疑問を呈するのは悪いことだ」と言われかねない、高校とはこういうところだという硬直化した雰囲気が学校全体を包み込んでいました。

ちなみに、学習指導要領に「身だしなみ指導」はありません。つまり、あくまでこれは学校が好きで独自に行っているものなのです。校長判断でやらないと決めたらやる必要のないもので、私が初任校として勤めた定時制高校や、公立でも私服の学校ではそのようなものは行われていません(注)

(注)長野県の公立高校の約半数は、私服だそうです。これに関して長野県の教師たちはどのように考えているのでしょうか。長野県松本深志高校の生徒が制作し、2014年「地方の時代」映画祭で高校生(中学生)部門奨励賞を受賞した映像作品「制服ガラパゴス2」では、教師たちへのインタビューが紹介されています。
その中に出てくる教師たちは一様に、「自分もそうだったので全く違和感がないです」「制服に縛られる、あるいは制服を着たいと思うことに関しては違和感を感じますね」と述べます。それに対して、隣の山梨県から人事交流で来たという教師は、「制服があってルールを守るということ、ルールを守らせるということも、高校の指導の一環なのかなと。高校生は高校生らしく」というものでした。「昔からこうだった」というその土地に根づいてきた慣習が、教師や子どもの価値観に大きな影響を及ぼすことが感じられ、大変興味深い作品です。

「身だしなみ指導」をやめられない4つの理由

身だしなみ指導からは、校則を変えることがなぜ難しいのかを考えるヒントがたくさん見つかります。

学校が厳しい身だしなみ指導や、制服の着用義務をやめられない理由は何なのでしょうか。4点考えられます。

1つ目は、その地域では昔からそうだったという「慣習」です。

日本の多くの地域では、中高生は毎日きちんと制服を着るものだという感覚が根強いと思います。そんな中で急に身だしなみを緩和すると、地域からクレームが入るのではないかという恐れを学校側は抱きます。また教師自身も、「中高生は中高生らしく制服を着るものだ」という観念に囚われがちです。

2つ目は、生徒を校則で縛らずに「自由」を与えると行動が荒れていき、教師の言うことに従わなくなるという恐れです。

教師がこうした思考を持ちやすいのは、1980年代の校内暴力時代に身だしなみ指導を厳しくしたり部活動を奨励したりしたことで、生徒の反抗を抑えられたという「成功体験」があるようです。自身がその時代の経験者でなくても、職員室内に脈々と受け継がれるマインドセット(思考様式)があるのです。