高齢者施設への住み替えを夫に勧めるのが現実的

今回は、夫と次男の問題をそれぞれで考えなければならないケースである。夫の症状は少しずつ進行していることもあり、あと数年もすると、1人での外出さえ困難になりそうだ。今は近所のスーパーに行くのを日課としており、買うものを紙に書き出して持たせれば、何とか買い物ができている。とはいえ、自分が好きな和菓子を毎日買ってきてしまうので、食べきれずに林さんが捨てる回数も増えてきた。

次男の不登校問題がなければ、長男と次男が大学に進学したら2人にはアパート暮らしをさせて、夫と自分(林さん)はサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)や自立型の有料老人ホームのような高齢者施設に入ることを検討したはずだという。

ところが、学校に行けない次男を置いて、親だけが施設に入るわけにはいかない。今でも仕事と介護の両立は精神的、肉体的にかなり厳しいと林さんはいう。夫の介護状態が今よりも重くなって、留守番ができなくなれば、在宅介護は限界だと林さんは考えている。

「一緒に住み替えよう」と話しかけ施設見学をスタート

まだ子どもにお金がかかる現状を考えると、林さんが仕事をリタイアするのも現実的ではない。林家の場合、それほど遠くない将来、夫には高齢者施設へ住み替えてもらうプランを進めていくしか、現実的には選択肢がなさそうだ。

とはいえ、「自宅が大好きな夫」が、自ら進んで高齢者施設へ住み替えることは考えられない。以前、介護付有料老人ホームのことを話したら、怒って部屋を出て行ってしまったそうだ。だが、その頃よりも認知症の症状は悪化している。夫の「住み替えたくない」を受け入れ続けるのは、今の林さんには酷すぎる。

レストランで向かい合って話し合い
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そこで夫には、「夫婦で入居できる施設を探そうと促して、見学をはじめてみてはどうか」と提案した。実際には夫だけが住み替えるのだが、「先に入居してくれれば、子どもの大学受験が終わったのち、私も施設へ引っ越すから」と説得できるかもしれない。ひとさまに噓をつかせるのは気が進まなかったが、現状を打開するためと割り切ってもらった。

以前は、施設の話をしただけで怒り出していた夫が、「妻と一緒なら」ということで、見学への同行をOKしてくれた。「妻と一緒の住み替え」が「自分一人だけの住み替え」になれば抵抗されるのは明らかだが、まずは夫が1人で暮らす施設のめどを付けたいと、林さんは言う。