防衛省でも気候変動タスクフォースを立ち上げ

最近では日本でも気候変動を単なる環境問題ではなく、安全保障問題と捉える動きが出てきています。たとえば、防衛省でも2021年から気候変動タスクフォースを立ち上げ、2022年8月には防衛省・自衛隊が気候変動に対処していくための「防衛省気候変動対処戦略」を公表しています。『防衛白書』の令和4年版では「気候変動が安全保障環境や軍に与える影響」という節を設けて、世界各国の動きを説明しています。

しかし欧米ではより早く、多くのシンクタンクが気候変動と安全保障を結びつけて議論を進めていました。その一つに米国の「気候変動と安全保障センター」(The Center for Climate & Security)のサイトがあり、各国の気候変動と安全保障の先行研究を整理したページがあります。

小さな氷の上にいる2頭の親子と思われるホッキョクグマ
写真=iStock.com/SeppFriedhuber
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そこでは、気候変動と安全保障を関連づけるこういった種類の研究が公表されたのは、1990年の米海軍大学による研究成果「地球的気候変動の米海軍への影響」が最初とされていますThe Climate Security Chronology lists, Climate Security Y101

データ収集で先行したのが海軍だった理由

何ゆえに、米海軍大学なのでしょうか。気象関連機関や環境問題の研究所ではなく? と不思議に思われる方もいるでしょう。しかしそれは偶然の産物でも突然の発見でもありません。長年にわたる継続観察の結果、必然だったのです。冷戦時代における米ソの核戦力の柱、その一つは戦略潜水艦であり、そのパトロール海域が北極海だったからです。

核ミサイルを発射するためには、北極の氷を割って浮上する必要があります。そのためには、どの海域において、どの時期は、どれくらい氷の厚さがあるか、というデータを収集し、作戦海域を決定する必要がありました。季節や海域ごとに、膨大な資料の積み重ねが不可欠です。