稽古は限界を超えてからが本番
【原田】大相撲の新弟子といえば、厳しい稽古はもちろん親元を離れての生活ですからいろいろと大変ですよね。
【君ヶ濱】はい、最初は(道を)間違えたと思いました。高校の相撲部とは全く別物でした。みんな命賭けているので目の色が違う。
【原田】稽古は限界までやりますものね。
【君ヶ濱】(大きく首を振って)限界を超えてからが本番です。
【原田】親方といえば、2008年11月場所、西幕下筆頭で十両昇進の目安である5勝を挙げたにもかかわらず、十両の下位で負け越した力士が少なかったため、昇進が見送られたことがありました。
幕下筆頭で5勝して十両にあがれなかったのは42年ぶりだと大きく報じられましたね。十両に上がれば「関取」になれる。幕下と十両の差は大きい。
【君ヶ濱】はい。だからその辺りになるとみんな目が血走っている。力を抜く人は誰もいないです。そこで勝ち越したのに上がれなかった。もうやる気がなくなりましたね。もうふて腐れてました。
【原田】とはいえ、親方は次の1月場所で全勝優勝して十両昇進を決めました。力士に限らず、壁を乗り越えられる人間とそうでない人間がいると思うんです。親方はその差はなんだと思いますか?
【君ヶ濱】(腕組みして)本人の努力っていう方もいるでしょう。ぼくの場合は“人”でしたね。(八角部屋がある東京・両国と)地元が離れているじゃないですか。
だから来ていただくのは難しい。そんな中、東京で出会った人が、すごく応援してくださった。その方々に励まされたので頑張れたのかなと思います。
【原田】今年1月場所で現役を引退されました。今後は八角部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたることになります。第2、第3の隠岐の海を育てなければならない。
【君ヶ濱】まずは八角部屋に力士を増やすことですね。自分たちは力士がいなければ何もできませんから。
力士として成功するのに必要なたった1つの資質
【原田】力士として成功する才能とは何だと思いますか? やはり身体は大きいほうがいいですか?
【君ヶ濱】(きっぱりと)身体の大きさは関係ないですね。小さい力士が強くなって勝てば、お客さんに喜んでもらえます。大切なのは素直さ、ですかね。真面目に話を聞く子は強いです。
高い志を持てと若い子に言ってもピンとこない。いろんな人と出会うことで、自分の道を見つけることができる。素直に人の話を聞く子だとそうした機会が多いと思うんです。
【原田】それは親方の実感ですね。
【君ヶ濱】結局、縁なんですよ。スカウトでもこの子に来てほしいと思っても縁がなければ来ない。絶対に来ないという人がぱっと会っただけで来ることもある。嘘だけはつきたくないんです。
この世界はきついよ、我慢できるか、ときちんと言った上で、それでも来るという人を迎え入れたいですね。
【原田】隠岐の島からまた親方のような力士が出てきますか?
【君ヶ濱】作らないといけないと思っています。島に才能のある子はいるとは思います。ただ、野球やサッカーと違って相撲って、一般的には少し遠い世界です。いきなり見ても入りたいとなかなか思いませんよね。
自分が育ったような環境で相撲をまず好きになってもらうこと。稽古だけだと辛いけど、大人がわいわい言って楽しんでいると、その場に行きたいと思うじゃないですか。