東京に戻って、サッポロの社長、寺坂史明の話を聞いた。

サッポロビール社長
寺坂史明

「私はすごく嬉しいんですよ。本社から言われるのではなく、新潟の現地の営業マンが何か武器になるものはないかと考えて、突き詰めていったときにエリア戦略と商品戦略がミックスした形でこうした商品が誕生したわけです。これはもう私の願うところそのもので、何かつきものが落ちたような気がするんです」

寺坂の持論は「東京に文明はあるが、文化はローカルにしかない」。その地方文化を活性化するために、サッポロビールはいったい何ができるかを考え抜くところから「風味爽快ニシテ」のようなヒット商品が生まれてくる。そこに、サッポロの活路がある。

「これは、取った取られたという派手な話ではありません。取った取られたの世界には、相当無理な力技が必要なんです。私も、いくらでも経験してきました。

しかし、売らんかなでいったときには、長続きする関係にはならない。すぐにまたひっくり返されてしまうのです。そうではなくて、いろいろな切り口で地域活性化に貢献していけば、持続的な関係を築けるのではないか。サッポロビールは、地味ですが、そうしたことに向いている会社だと思うんですよ」

サッポロにはすでに、「サッポロクラシック」という北海道限定販売ビールがあり、資本業務提携をしたポッカの子会社、沖縄ポッカから、レモンとビールのコラボレーション商品を沖縄限定で発売する予定もあるという。

大いなる地ビール屋とでも呼びたくなってしまうが、寺坂の言葉は、縮小し続けるビールマーケットの中で繰り返される取った取られたの世界に吹く、爽快な一陣の風だ。地域に活路があるか否かは未知数だが、少なくとも新潟には、人と人の関係に真心があった。

つきものが落ちたという寺坂は、

「人事を尽くして天候を待つ、ですよ」

と地味なジョークを言った。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(的野弘路、永井 浩=撮影)
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