お客様に嫌な思いをさせない絶妙なバランス感覚

この話だけ聞くと「なんてセコくて勝手なんだ」と思うかもしれません。

しかし、それでもお客様から文句が出ることはありませんでした。なぜなら、大将は常連さんの好みを把握していて、それを外すようなものは出さなかったからです。

例えばいくらレバーの串が余っていても、レバーが苦手な相手には決して出しませんでした。塩かタレか、というところまで相手の好みを知っていたので、おまかせでも問題がなかったのです。

玉岡一央『ビジネスで大切なことはみんな吉祥寺の焼き鳥屋で教わった』(秀和システム)
玉岡一央『ビジネスで大切なことはみんな吉祥寺の焼き鳥屋で教わった』(秀和システム)

「最初に焼き鳥を5本注文する」というルールにしても、多くの若いお客様は焼き鳥5本だけでおさまるわけもなく、最初の5本を食べると、何かしら追加で頼んでいました。勝手なルールのようでいて、お客様に無理をさせるようなものではなかったのです。

ビジネスをしていると「お客様にいい顔をしようとすると採算が悪くなってしまう」というパターンと「自分の都合を押しつけてお客様が離れてしまう」というパターンの狭間で悩みごとは多いと思いますが、大将はそのあたりのバランス感覚がとても優れていたのでしょう。

商売として押さえるところはきっちり押さえつつ、お客様に嫌な思いはさせない。これもお店が長続きした秘訣ひけつの1つだったと思います。

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