常連さんにとって居心地のいい店を作るために

ただし、常連さんになってもらいたいのは、気心が知れてきた人だけ。どんなに愛想が良くても、自分とは馬が合わないと感じたら、サラッと遠ざけていました。

例えば、お店ではAMラジオ放送をかけていることがありましたが、嫌な人が来ると大将はラジオを切っていました。なぜなら、その人を早く帰したいからです。

お店がシーンとしているとお客様もさすがに居心地が悪くなり、1杯飲んで帰っていきます。今思うと、かなりのパワープレイです。

ちなみに、そういう空気の中に常連さんが入ってくると、大将は「今、ラジオでプロ野球速報をやっているから聞く?」と、ラジオを入れていました。

お客様を取捨選択するとは、とんでもないと思う方もいるのではないでしょうか。大手企業やチェーン店などではあり得ないことです。

しかし、対象の焼き鳥屋のような個人経営のお店では、常連さんにとって居心地のいいお店を作ることが、お店を長続きさせるコツなのだと思います。

常連さんが多ければ多いほど、安定した売上が見込めるようになります。そして、お客様に飲む量にリミットを設けることで、お客様は身体を壊さず長く通うことができ、お店側は酒癖の良い常連さんのいるお店を続けることができるというわけです。

飲み物を注文すると、一緒に焼き鳥が5本出てくる

大将のお店では、1杯目の飲み物の注文時に焼き鳥を5本、一緒に注文するというルールがありました。また、追加の焼き鳥は2本からでした。

それだけなら他のお店でも珍しくないかもしれませんが、相手が常連さんの場合、1杯目に飲む飲み物だけではなく、焼き鳥も好みを把握していて、その常連さんのお約束を出します(同意は取りますが)。お約束が売り切れの場合には、こちらが選んだ種類のものを5本出すのです。

つまり、お店に来てまず飲み物を注文したら、黙っていても一緒に焼き鳥が5本出てくるという塩梅です。日によっては焼き鳥だけではなく、レバ刺しや煮込みを押し売りして出す時もありました。

これはなぜかというと、食材の無駄を出さないためです。例えば極端な話、レバーの串が余っていたとしたら、常連さんにはこちらの都合でレバーを出していたわけです。

こういうやり方をすれば、常連さんのメンバーもある程度決まっていて、週に何日来るのかがだいたい分かっていますから、無駄な仕込みは必要ありません。今風にいえば、フードロスが最小限で済みます。

私が中学生の頃、大将はよく「売上とは客単価×客数×リピート率だ」とか「小さい飲食店は、仕入れにどれだけ無駄を出さないかが大切だ」といった話をしてくれましたが、これはまさにその実践例といえます。

ちなみに、店の名物に「独特レバ刺し」という、豚レバーのスライスに、しょうがと輪切りのねぎをのせ、しょう油とごま油と、味の素少々を振ったメニューがありましたが、これも新鮮なレバーはレバ刺しで出し、日付が経つと串に刺し、それでも残るようであれば煮込みに入れる、という具合に徹底的に無駄を出さない工夫をしていました。