「周りを見る」ということの本当の意味

次は同じ条件でダイレクトパスを回すよう指示する。選手は自分の周囲にどの色のビブスの選手がいるのか、誰にパスするのが最も有効なのかという情報を仕入れて判断してもらう。それがすなわち「周りを見る」という動作であることを会得させるのだ。

島沢優子『オシムの遺産』(竹書房)
島沢優子『オシムの遺産』(竹書房)

池上はスロベニアのコーチに指導を受けた際「パスが来たら(受けるまでの)ボールが転がっている間に周りを見なさい」と言われた。自分も含め日本のコーチは「周りを見てからパスをもらいなさい」と指導していたので衝撃的だったという。ボールが転がっている間に状況は変わる。そのくらいスピーディーな展開を目指さなくてはいけないと学んだ。

オシムからも指導のポイントをたくさん学んだ。例えば視野の確保。

スペースに動いてボールをもらおうとジェフ選手が走ると、オシムは不機嫌な顔で選手に尋ねた。

「左右を見ていたのは知っている。だが、前方はどうだったか? 後ろは?」

次に選手が前後左右を意識してプレーを選択しても褒めない。プロであれば、当然だからだ。次に、左右前後を意識したうえで斜めに走った選手に、初めて「ブラボー!」と言って拍手を贈った。

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