スマホやタブレットでの学習では脳が働かない!?
では、肝心の脳の活動はどうなっていたでしょうか?
【図表1】は、言葉調べをしているときの前頭前野の活動の変化を表しています。縦軸が「脳の活動の変化」、横軸が「時間」です。黒い線が「右の脳活動」、灰色の線が「左の脳活動」をそれぞれ表しています。
最初の約30秒間は何もせずにボーッとして安静にしていただきました。1本目の縦線までの時間です。この間の脳活動が基準となります。
続いて、2本目の縦線までの間が、自分のスマホを使って2分間の言葉調べを行なっているときの脳活動を表しています。脳活動の変化を見ると、最初の何もしていないときの脳活動とほとんど変わっていないことがわかります。
再び、30秒間の何もしない状態をはさんで、3本目から4本目の縦線までの2分間が、紙の辞書を使った言葉調べの脳活動を表しています。
ネット検索では脳の前頭前野が動いていないという衝撃
紙の辞書を用いて単語を調べているときには、調べ始めから前頭前野の活動が急激に上がっている様子が見てとれます。その後、2分間絶えず活発にはたらき続けています。先ほどご紹介したように、紙の辞書で言葉調べをしたときには、5つの単語を調べることができました。グラフの線の動きをよく見てみてください。きれいに5つの山ができていますね。
きちんと言葉調べに応じて、前頭前野が生き生きとはたらいている様子がわかります。目的の単語を見つけた瞬間は特に活動が高まっていますが、実はそれ以外の時間も、調べる作業の間は、活動が高く維持されています。紙の辞書で単語を調べるためには、頭文字のツメを探して本を開き、柱を見ながらページをめくり、単語を探さなくてはなりません。
指先を器用に操りながら文字を目で追う繊細な作業です。ときには目的の単語だけではなく前後にある単語が目に入り、気になって読んでいることもあるでしょう。このように、紙の辞書を引くという行為そのものが前頭前野の活動を高めていると考えられます。
さらに、調べた単語の意味を思い出せるかを実験後に抜き打ちでテストしてみました。紙の辞書で調べた単語は5つのうち2つ思い出せたのに対し、スマホで調べた単語は6つのうち1つも思い出せませんでした。
みなさんも日常生活の中で同じような経験をされたことはありませんか? ちょっと気になってスマホで調べた情報は、次の日には覚えていなかったり、以前にも同じことを調べていたりしたことがあるかと思います。脳がはたらいていないのですから、覚えていなくて当然なのです。