図鑑が売れている。昨年度の図鑑新刊発行部数は、前年度比66%増の163万部。なぜ人気が出たのか。
秘密は、編集の工夫にある。従来の図鑑は50音順に事象を解説するものが多く、主に親が子に買い与える教養本だった。しかし最近はいわば科学エンタメ系。例えば、73万部の大ヒットとなり、「新型図鑑」ブームを牽引する小学館の『くらべる図鑑』。「生き物の大きさ」のページでは、世界最大の動物シロナガスクジラに比べ、象や人間がいかに小さいかが一目瞭然だ。他社からは3DやDVD付きも出ており、そうした仕掛けに子供が食いついた。
驚くのは、ビジネスマンがその子供以上に興味津々だということだ。
「子供の就寝中に親が読みふけったり、それだけでなく『図鑑の見せ方をヒントに会社でプレゼンしてみます』といった声が多数寄せられています」(小学館 児童図書・副編集長、廣野篤氏)
つまり、ユニークでわかりやすい切り口で比較する新型図鑑の編集手法に刺激を受け、それを顧客向けのプレゼン資料作りなどにアレンジしているというのだ。図鑑的な一覧性の見やすさや仕掛けで客の心をつかむのだろう。
一方、「なぜうさぎの耳は長いか」「のりはくっつくのか」といった素朴な原因を解説した『なぜ?の図鑑』など、やはり切り口重視のシリーズを発行する学研教育出版 図鑑百科編集長の松下清氏も「大人受け」をこう分析する。
「子供と一緒に自然科学を勉強し直して、森羅万象のメカニズムやカラクリを知りたい読者が多いですね。同じ地球上の生き物として必死にサバイバルする動植物の知恵やタフさに、“生き方”を学ぶような姿勢も強い」
文系出身なら理系の世界は縁遠い存在だが、こうした新型図鑑を読んで専門外の分野に触れ、発想力を磨こうとするビジネスマンも多いのだ。
(撮影=依田佳子)