やるべきことは山ほどあるのに政府の動きは鈍い

つまり、安いバッテリーを求めれば中国に頼らざるを得ず、しかし環境汚染や人権問題を考慮すればコストの高い国での生産に切り替えるしかない。これもバッテリー価格の上昇圧力となる。いま、多くの自動車メーカーが意欲的なEV生産計画をぶち上げ各地にバッテリー工場の建設を始めているが、コスト削減が目論見どおりにいかなければ(おそらくそうなる)計画は立ちゆかない。

弁当屋を立ち上げたはいいが、米の仕入れ価格が高くなり薄利多売のビジネスモデルが崩壊し、大量に準備した炊飯器の稼働率が落ちて赤字に陥る……といったことが実際に起きる可能性はかなり高い。

日本のGDPにおける製造業の割合は20%。政府の言う「日本はデジタルとグリーンで戦っていく」などという言葉は、5兆ドルの20%=100兆円という現実の数字を前にして空しく聞こえる。それでもカーボンニュートラルとEVシフトを進めるのであれば、最低でも国内での自動車生産量に見合ったバッテリー工場と原材料、安くてクリーンな電源、半導体の確保に政府は全力で対応するべきだ。

しかし、政府の動きは鈍い。南鳥島近海で発見されているレアアースの採掘にしても、民間でやりたいところがあるならどうぞという消極的な姿勢であり、その間に周辺海域には中国の調査船が多数押し寄せている。2021年3月11日、豊田社長(当時=編集部注)は日本自動車工業会会長としてこのように語った。

70万人以上の雇用に影響が出てくる恐れ

「同じクルマでも日本の工場で生産したクルマと、(原子力発電の多い)フランスの工場でつくったクルマとでは生産段階を含めたトータルの二酸化炭素量が大きく異なります。日本でつくったクルマは二酸化炭素を多く排出するからダメだとなったら、自動車産業が稼いでいる外貨15兆円が限りなくゼロになり、自動車業界で働く550万人のうちの70万から100万人の雇用に影響が出てくることになります」

杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)
杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)

それでもトヨタが潰れることはないだろう。日本を捨て、工場、あるいは本社ごと海外に出て行けばいいだけの話である。しかし、日本という国に逃げる場所はない。ここでやっていくしかないのだ。だからこそ、この国を繁栄させ国民の幸福を最大化する環境を整えるのが政府の存在理由である。

にもかかわらず、再エネ資源に乏しい自国の立ち位置を説明することもなく、日本が誇るハイブリッドをはじめとする優れた各種省エネ技術をアピールすることもなく、ただただ海外の目を気にし、カーボンニュートラルと決めたからキミたち頑張ってねと民間に無理難題を押し付けるだけの政府。

経済一流、政治は三流と言われて久しいが、このままでは経済までもが三流になってしまう。

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