岸田政権は2050年までに温室効果ガス排出をゼロにする「グリーン成長戦略」を掲げている。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志さんは「グリーン成長戦略は日本人を貧しくさせるだけだ。ユートピア的な脱炭素化より、原発再稼働を含む現実的なシナリオに転換しなければならない」という――。
※本稿は、杉山大志『亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
「カーボンニュートラルの達成」は極めて困難
現在、日本は「2050年までにCO2ゼロ」という目標を実現するために「グリーン成長戦略」(正式名称「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」)を掲げています。
再生可能エネルギー(グリーン・エネルギー)を導入・拡大しながら、そのエネルギーシフトに伴う投資・技術革新等で経済も成長させて、2050年までに「カーボンニュートラル」(CO2などの温室効果ガス排出を全体としてゼロにすること)を達成しようというプランです。
2020年10月に当時の菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことを受けて、翌2021年6月に発表されました。
しかし、現状を踏まえると、カーボンニュートラルという目標を達成することは極めて困難というほかありません。
深刻な社会的悪影響が起きる
それどころか、同戦略を実施に移すとなると、深刻な社会的悪影響が起きることは必定です。根本的な政策変更が求められます。
では、どのような成長戦略なら現状に即したものになるでしょうか?
その核心は「現実的な時間軸の設定」と「原子力の活用」です。
現行のグリーン成長戦略を見ると、2050年時点において、①電力部門においては脱炭素電源を活用し、②非電力部門においては電化を進め、電化できない部分については、水素、メタネーション、合成燃料、バイオマスなどのCO2排出のない燃料を用いて、③それでも発生するCO2についてはDACCS(大気からCO2を回収して地中に処分する技術)や植林で相殺する、としています(図表1参照)。