日本の大学に魅力を感じなくなっている高校生たち

高校生の段階で文系・理系に分かれるという教育体系に対して疑問を感じた人も多かったようです。まだまだ日本の高校では「大学受験ありき」で、どんな学問なのかを詳しく知らないまま早い段階から文理に分けられ、大学も入学前から学部や学科を決めるところが大半です。

ノートと教科書を広げ勉強する学生
写真=iStock.com/takasuu
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「日本の大学は、自分がやりたい勉強に対しての柔軟性があまりない。こちらでは認知科学とコンピュータサイエンスの2つを専攻しているが、これらの学問を両方同時に選ぶのは日本の大学だと難しい」(ポモナカレッジの今井さん)

「日本の大学受験の偏差値至上主義的なところや、文理を決めたらもう変えられないという硬直的なところが見えてくると、海外の大学に特段魅力があったというより、日本の大学に行きたいという気持ちがどんどん削がれていった」(ハーバード大学の松野さん)

最近では海外の大学を目指す高校生が率直な思いをSNSで発信しているのをたびたび見かけるのですが、彼らの投稿を見ていても、こうした日本の教育では満たされないという感情が引き金になっているケースが少なくないように感じます。

「東大一択」から変化しつつある開成学園

ハーバード大学准教授・併任教授、東京大学教授を経て、2011年から2020年まで開成中学校・高等学校の校長を務めた柳沢幸雄氏は、生徒たちの海外進学を支えてきました。開成といえば、東大合格者数日本一で有名な進学校です。優秀な日本の高校生にとって、これまで進路の選択肢はほぼ東大一択でした。

ところがハーバード大学で教鞭をとっていた柳沢氏が開成に校長として招かれたことで、生徒たちは「海外大学」という選択肢の存在に気づいたのです。

「開成は進路指導をしないので、教員は誰も『東大に行け』とも『海外に行け』とも言ってなかったんです。ところがある日、卒業したばかりの生徒が校長室に来て、『どうやったらハーバードに進学できるか教えてほしい』と言ってきたのが始まりでした。そこから、1人、2人と進学していくようになりましたが、進学先は最先端の優れた研究活動を行うハーバードやスタンフォード、イェールといった日本でも有名な研究大学とともに、全米での評価は名門のアイビーリーグに劣らないウィリアムズやポモナ、スワスモアといった、少人数教育が特徴的なリベラルアーツの大学を選ぶ生徒も少なくありません。

日本ではあまり知られていなくても、生徒たちは必ずしも大学の『看板』や『ブランド』ではなく、何を学ぶか、そのためにどこで誰とどう学ぶかの『環境』で選ぶようになってきているのです。