「東大一択」ではなく海外も視野に入れて欲しい

学費の問題で全員が進学できるわけではありませんが、私が校長を退任する2020年頃には、高校1年生の時点で1割くらいは東大一択ではなく、このように多様な海外の大学も選択肢のひとつとして考えるようになりました。私はこの変化を好意的に受け止めています。現に今、多くの保護者は、子どもに海外も視野に入れた人間になってほしいと考えています。

ただ、これでもまだ少ない。日本の高校生はアメリカの高校生より優秀です。東大の新1年生だって、ハーバードの新1年生より優秀です。しかし残念なのは、日本の学生は大学に入るとたちまち勉強しなくなることです。

ハーバードの学生は学期中は週に60時間以上勉強しています。これは、ハーバードに限った話ではなく、アメリカの大学はどこも勉強しないと卒業できないのでやらざるを得ないのです。課題も山のように出ますから、毎日皆必死です。こうなると、4年後には大きく水をあけられるのは当然です。だからこそ、開成の東大合格者数がトップでなくなるくらいまで海外大を選ぶ生徒が増えてほしい」

「東大の一人勝ちが日本の弱さにつながっている」

また柳沢氏は「東大が蹴られることなく一人勝ちし続けていることが、日本の弱さにもつながっている」と言います。

加藤紀子『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)
加藤紀子『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)

柳沢氏によると、ハーバードのような難関大学でも合格者の2割ほどが合格を辞退するといいます。他にもトップスクールが複数あり、受験生にとってはハーバードでさえ選択肢のひとつなのです。一方で、蹴られることがない東大は、他のどの大学とも競合になりません。何もしなくても優秀な学生が集まってくるので、自らの教育を改善しなければというモチベーションが生まれません。しかしそれは裏を返せば、大学として成長の機会を自ら手放していることになります。

東京学芸大学附属国際中等教育学校の荻野勉校長は、「最初の海外大進学者を出すまでがきつい。出始めると、指導のポイントが見えてくるし、海外大に進学した卒業生から情報が入ったり、協力が得られる。また、実績のある海外大も情報や相談の機会を与えてくれるようになる」と文部科学省の有識者会議で語っています。

多くの学校にとって、海外大学への進学という選択はまだ黎明期れいめいきです。けれども先ほどご紹介したように、志願者の裾野は広がっています。こうやって日本各地の学校で1人、2人と進学者が出てくれば、海外大学に進学するという選択肢がもっと身近になる日はそう遠くないかもしれません。

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