メディアドゥ社長のメッセージに無反応
さて、藤田のメッセージに対してタイラーはどう反応したのか。何もしなかった。1カ月間にわたって。「どこの誰だか分からなかったので、放っておいたんです。でも、徳島に戻ったときにちゃんと返事しましたよ」
ミーティング場所は徳島市内。不思議な組み合わせだった。片や半袖・短パン姿で自転車に乗って現れたアウトドア愛好家のタイラー、片やピシっとしたスーツで身を包んだ藤田らビジネスマン3人だったのだから。
「こんにちは! タイラーです。すぐに返事をしなくてごめんなさい」
大学生時代から日本語を勉強し、長く日本に住んでいたタイラーは日本語であいさつした。カリフォルニア出身らしく、陽気であか抜けている。
「徳島ではどんな仕事をしているのですか?」と藤田は聞いた。
「祖谷でジップラインの会社に勤めています。もともとは映像クリエイターです。今も徳島でいくつかプロジェクトを進めています」
タイラーはこれまでに徳島で制作した作品を数点見せた。父親の仕事の関係で若い頃からハリウッドの映画製作現場で経験を積んでいたということも説明した(2005年公開のディズニー映画『スカイ・ハイ』で特殊効果を手掛けたこともあった)。
「木頭の藤田」と一緒なら面白いかもしれない
すると、藤田からは間髪入れずに提案があった。「すごいですね。木頭に来て私の会社で一緒に働いてみませんか?」
タイラーはあまりの急展開に面食らってしまった。スーツとネクタイは嫌だし、大企業は性に合わない。どうしよう……。
だが、話を聞いていくうちに、藤田には二つの顔があるということが分かった。一つは急成長するメディアドゥを率いる経営者の顔、もう一つは木頭を愛するルーラル起業家の顔。「メディアドウの藤田」ではなく「木頭の藤田」と一緒に仕事をするなら面白いかもしれない!
ただし、タイラーは条件を一つ付けた。
「外国人が私一人ではちょっと寂しくなりそうです。アルリックと一緒なら安心なのですが……」
「どんな人ですか?」
「祖谷で知り合ったノルウェー人です。日本人のガールフレンドと一緒ですし、私と共同で動画も制作しています」
祖谷でタイラーがジップラインの仕事をしていたとき、すぐ隣でアルリックはガールフレンドと共にゲストハウス「YOKIゲストハウス」を運営していた。徳島のへき地で2人の外国人が隣同士で働いている――。仲良くならないわけがなかった。
その後、タイラーが映像を担当、アルリックが音楽を担当する形で、祖谷を舞台にして共同プロジェクトがスタートした。