「徳島に住むアメリカ人」にラブコール
藤田は驚いた。ニュージーランド旅行中に徳島に住む外国人の話を聞くとは思いも寄らなかった。そもそも、木頭に外国人を呼び込みたいとかねて考えていながらも、コネクションがないためになかなか前へ進めていなかった。チャンスを逃すわけにはいかなかった。
「その人は今何をしているのですか?」
「アメリカに一時帰国中です」
「ぜひつないでくれませんか?」
「いいですよ」
その後、藤田はフェイスブック経由でアメリカ人とつながり、メッセージを送った。「徳島に戻った際にはぜひお会いしたいです」
藤田からメッセージを受け取ったアメリカ人がタイラーだった。当時、徳島の山奥にある祖谷でジップラインの仕事をしていた。ジップラインとは、渓谷に掛けられたワイヤーロープに人がぶら下がり、空中を滑り降りるアドベンチャーだ。
アウトドア愛好家を魅了した日本3大秘境
大自然が大好きでパラグライダーを趣味にするタイラーにとって祖谷はぴったりだった。何しろ「日本3大秘境の一つ」と言われているのだ。西日本で2番目に高い剣山の山麓に位置している点で木頭と同じだ(木頭が南麓であるのに対して祖谷は西麓)。
祖谷に住み着く前にはタイラーは2年間ニュージーランドに住んでいた。いわゆる「ギリホリ」で同国へ行き、パラグライダーを満喫していたのだ。ギリホリとは、年齢制限に引っ掛かる30歳ぎりぎりでワーキングホリデー制度を使って海外生活するということだ。
ニュージーランド生活2年目に入り、仕事を探していたときのことだ。街中を歩いていると、ふと日本語の看板が目に飛び込んできた。そこには「スタッフ募集中」と書いてあった。
日本絡みだからチャンスがあるかもしれない! すぐに店内に足を踏み入れ、日本語で「すみませーん」と声を上げた。
「外に募集中と書いてあるので……レストランで働いた経験はありませんが、何か仕事がありますか?」
「日本語を話せるんだね」と店長は言った。「いいよ。あしたから来て」
日本食レストランで数カ月働いたタイラー。「すごく楽しかった」と振り返る。これが藤田との接点になるとは夢想だにしていなかった。