民間・外国人版「地域おこし協力隊」

英語も通じない限界集落の木頭。ここにタイラーとアルリックという2人のクリエイターがやって来た。前者はフィアンセ――現在の妻――と一緒、後者はガールフレンドと一緒であり、これから何年も「木頭住民」であり続けるつもりだ。

タイラー・ワキ氏(左)とアルリック・ファレット氏
写真提供=KITO DESIGN HOLDINGS
タイラー・ワキ氏(左)とアルリック・ファレット氏

2人に興味を持ってスカウトしたのが藤田だ。彼の頭の中には「地域活性化の決定打はモノではなくヒト」という信念がある。

地域コミュニティーに変化をもたらす呼び水として2人は不可欠の人材、と藤田は考えている。そのためにヨットによる太平洋横断が必要ならば、そこに多額の支援金を投じることに何のためらいもない。

「木頭の活性化には多様性が不可欠で、多様性確保のためには外国人の存在が絶対に必要。だからすてきな2人にはぜひとも来てもらいたいと思ったんです」

藤田はIT(情報技術)業界の寵児であると同時に地方創生に全力をそそぐルーラル(田舎)起業家だ。木頭再生のため2017年に「木頭デザインホールディングス(KDH)」を設立している。タイラーとアルリックはKDHの社員になった(現在はKDH傘下のクリエイティブ会社「Kito Creatives」の社員)。

域外人材の流入によって地域活性化を狙うプログラムとしては、政府が2009年に創設した「地域おこし協力隊」がある。だが、藤田のビジョンは少し異なる。KDHは100%民間であるし、タイラーとアルリックは外国人なのだ。

メディアドゥ創業者が異文化とのつながりに価値を見いだしているのは、1987年にアメリカで発足した世界的な起業家ネットワーク「EO(起業家機構)」で知見を広めたからなのかもしれない。彼はEOの東京支部である「EO Tokyo」会長を務めたことがある。

新婚旅行中に「偶然の産物」が起きた

最初に藤田とつながったのはタイラーだった。偶然に偶然が重なり、セレンディピティが起きた。

時計の針を2018年12月に戻そう。新婚の藤田は雄大な自然を見たいと思い、ハネムーン先としてニュージーランドを選んだ。

同国屈指のリゾート地クイーンズタウンを旅していたときのことだ。無性に日本食を食べたくなり、地元の日本食レストランに入った。なぜか日本人店員とウマが合い、いつの間にか木頭のことを熱く語り始めた。メディアドゥ社長であることには一切触れずに。

店員は思い出したように言った。「そういえば、以前ここで働いていたアメリカ人も徳島に住んでいるはずです」