日本の米軍基地で水泳インストラクター
藤田とタイラーが徳島市内で初ミーティングに臨んだ段階ではアルリックはもう日本にいなかった。ワーキングホリデービザの期限が切れ、ノルウェーへ戻っていたのだ。
それでも藤田は気にせず、「アルリックも支援します」と確約した。何としてでもタイラーに木頭に来てもらいたかったのだ。
4カ月後、タイラーはKDHの社員になった。アルリックのKDH入りも決まったからだ。
タイラーにとって日本との接点は大学生時代にまでさかのぼる。彼がカリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)で学んでいた2006年のことだ。映画『ダ・ヴィンチ・コード』を見るために映画館の外で並んでいると、列の前に立つ男性の会話が聞こえてきた。
「近いうちにドイツに行く。米軍基地で水泳を教えるんだ」
面白そうな仕事だから自分でも応募してみたいな、とタイラーは思った。すぐに男性の肩をたたいて尋ねた。
「突然すみません。今の話をもっと詳しく教えてくれませんか?」
その後、とんとん拍子で話が進んだ。採用担当者から「ドイツがいい? それともイタリア?」と聞かれると、タイラーは「全く違う文化圏に行ってみたい」と回答。それで日本行きが決まった。日本についての知識はほとんどゼロだったのに。
以後、タイラーはCSUNに籍を置いたまま夏休みになると日本へ飛び立ち、米軍基地や大使館で水泳インストラクターとして働いた。2007~10年の4年間で大の日本ファンになり、CSUN卒業後には外国青年招致事業「JETプログラム」の英語教師として徳島に移り住んだ。勤務地は剣山の北麓・つるぎ町(旧貞光町)だった。
古い日本旅館をリノベーションしたゲストハウス
徳島県の山奥にひっそりとたたずむ2階建てゲストハウスがある。「ネクストチャプター(Next Chapter)」だ。
2階の壁には大きな円形ガラス窓が設けられており、インパクトがある。1階正面玄関のドアも庭の芝生も同じ円形をモチーフにしており、ユニークだ。それでありながら昔ながらの旅館の雰囲気も漂わせている。
正面玄関のドアを開けると、ポニーテールで長身の若者が出迎えてくれた。アルリックだ。