山奥に建つゲストハウスの本当の目的
繰り返しになるが、藤田はタイラーとアルリックの2人にはできるだけ長く木頭に住んでもらいたいと思っている。その延長線上で出てきたのがゲストハウスのネクストチャプター構想だ。
「彼らには何よりも刺激が必要です。解決先の一つがゲストハウスです」と藤田は言う。「彼らは理想のゲストハウスを自由にデザインし、呼びたい人をどんどん呼べばいい。そうすれば山奥にいてもいろんな人に出会えて刺激を得られる。彼らにとってのホームを用意してあげたいと考え、ゲストハウスプロジェクトを任せたのです」
ネクストチャプターにはアフターコロナのインバウンド需要に応えるという目的がある。今年に入ってアジアやヨーロッパなど海外からの宿泊客がどっと増えている。とはいえ1日に宿泊できる人数は最大で16人。現在はアルリックが一人でやりくりしており、「1日7~8人の宿泊でも結構忙しい」という。
地元への経済効果は限定的だが、藤田にしてみればそれでも構わないのだろう。タイラーとアルリックのためという意味合いが込められているからにほかならない。
実際、宿泊客には2人の友人もいれば地元の家族連れもいる。これならばゲストハウスを拠点にして彼らは交友関係を深めたり、地元との接点をつくったりして孤立しないで済む。だからこそデザインから運営や接客まですべてが彼らに任されているのだろう。
2人を起点に、外国人が続々と訪れる地に
タイラーとアルリックの2人はさまざまなルートを通じて発信中だ。動画共有サイトの「Vimeo」に木頭の自然や文化などを紹介する作品をアップしているほか、四国放送でも月1回のコーナーを担当している。
長期的には2人が起点となって外国人が木頭に続々とやって来れば、いわば外国人版「地域おこし協力隊」が立ち上がる格好になる。そうなれば藤田が期待するように地域の多様化が進展する。
多様性はイノベーションに直結する。シリコンバレーを見れば一目瞭然だ。ハイテク系スタートアップ創業者の大半は移民といわれている。米グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンはロシア生まれだし、米テスラの創業者イーロン・マスクは南アフリカ生まれだ。
外国から新進気鋭のクリエイターチームが山奥に移り住み、映像や音楽を通じて地域情報を発信する――こんなケースは日本にどれだけあるだろうか。事の始まりはハネムーン中のセレンディピティ、チャンスを生かしたのはルーラル起業家の熱い思いだ。(文中敬称略)