これに加え、ロシアの私立病院では医療費が高額になる問題がある。昨年5月にアルゼンチンに到着したというロシア人女性は、ユーロ・ニュースに対し、「ここでは病院が安くつきますから」と来訪の理由を説明している。

もっともアルゼンチンでは、今年2月のインフレ率が100%超えを記録した。それでも、戦争で経済と生活環境が不安定となったロシアよりは、アルゼンチンに信頼を寄せるカップルが多いようだ。ブルームバーグは、「ロシア人たちはプーチンの戦争よりも、アルゼンチンのインフレ率100%を選ぶ」と記事にしている。

「エコノミークラス」は66万円、「ファーストクラス」は…

こうしたなか「出産ツーリズム」がグレーゾーン・ビジネスとして成立しているようだ。

2月10日、首都ブエノスアイレスに位置するエセイサ国際空港。東アフリカのエチオピア航空機が到着すると、妊婦33人を含む乗客たちが一斉に降機した。アルゼンチン側の入国管理局は、妊婦のうち3人の身柄を拘束した。

地元紙の報道を基にBBCが報じたところによると、「書類上の問題」が確認されたという。彼女たちは観光目的で訪れたと虚偽の申請をしつつ、実際には出産のため入境した疑いが持たれている。

現状では、入国の目的を観光と偽ることを除いては、ロシア人たちの入国に違法性はない。こうしたなか「出産ツーリズム」がグレーゾーン・ビジネスとして成立しているようだ。

BBCが確認したロシア語のウェブサイトでは、5000ドル(約66万円)の「エコノミークラス」から1万5000ドル(約197万円)の「ファーストクラス」まで、予算に応じた渡航プランが紹介されていたという。現状では、入国の目的を観光と偽ることを除いては、ロシア人たちの入国に違法性はない。

こうしたプランは空港への迎車に始まり、「アルゼンチン首都で最高の病院」での出産入院の手配や、現地での生活を見据えたスペイン語の授業までを含む、包括的なパッケージとなっている。

新生児を大切に抱える母親
写真=iStock.com/Lara Sanmarti
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不安につけ込んだビジネスという指摘も

ガーディアン紙は「出産ツーリズムの概念自体は、新しいものではない」としながらも、「戦争によってロシアは西側から孤立し、ロシア人がビザを必要としないアルゼンチンはこうして、子供に第二の国籍という特権を与えたい家族にとって、人気の目的地と化したのである」と指摘している。

すべて自前でこなす決意があれば、こうした高額なサービスすら必要ない。妊娠9カ月の妻と現地に渡ったロシア人男性は、ユーロ・ニュースに対し、「ロシア人はビザなしでアルゼンチンに来て90日間滞在できるのに、なぜこのようなサービスを利用するのか理解できない」と語っている。