男性によると「唯一の苦労は、マンションを見つけることだった」という。記事は、市民権の申請を弁護士に依頼したとしても、パッケージ費用の10%程度で済むと指摘する。現地を訪れる人々の不安につけ込み、高額なビジネスが横行しているようだ。
なかには夫婦がアルゼンチンに定住できるよう、書類を偽造するケースがあり、アルゼンチン警察が摘発に乗り出している。また、両親のアルゼンチン国籍の取得が約束されていると謳い高額を請求するものもあるが、実際には国籍申請が通る法的な後ろ盾はない。
妊婦たちは「プーチンの戦争」の被害者である
観光を装った不正な入国は、国境管理の観点から許されることではない。
観光目的との嘘を並べて押し寄せる1万人以上のロシア人たちに、アルゼンチン当局は閉口している。だが、妊娠しているだけでは、観光客でないと判断することもできない。審査の限界を突いた不正となっている。
同時に、多数のロシア人妊婦が国外での出産を迫られているという事実は、事態のもうひとつの側面を物語る。妊婦たちは、ロシアでの出産が、子供の将来にかせをかけることになると危惧しているのだ。出産という困難な時期に一計を案じなければならない妊婦たちも、プーチン氏が起こした侵略戦争の被害者とみることができるかもしれない。
ロシア国外への移動をめぐっては、欧米の経済制裁を逃れようとする新興財閥(オリガルヒ)たちが、ドバイやアルメニアなどへ移住し、現地でビジネスを続行する例が問題視されてきた。金銭目的のこうした事例と比べれば、子供の将来をロシアの汚名から救いたいという父母の計らいは、心情的にはまだ理解が及ぶものだ。
抜け穴を突いた「出産ツーリズム」は褒められたものではないものの、ロシアの妊婦たちが身重な身体で赤道を跨いだ大移動に臨む現状の裏には、ウクライナ侵攻の影響に踊らされる悲しい国民たちの実情が隠されているようだ。